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言えばよかったのかも知れない、と思う。たった一言、―――いつまでもこんな想いが残るのなら。 たとえ、それが何の意味もなさなかったとしても。 機械に連れ去られた神様を追いかけて、もうどのくらい経っただろう。目指し始めたときには、名前に相応しく糸ほどの細さにしか見えなかった「蜘蛛の糸」も、今では確かな立体感を持って目の前にある。 村とオアシスでそれぞれ一人ずつの防人と戦って、今、自分には四人分の願いと力が宿っている。まだアールマティの能力すら完全に身に付けられてはいないのに、立ち止まる暇もなく進む世界に、シオは否応なしに流されていた。 フランを引いた分だけ軽くなった荷物を背負い直して、顎に落ちた汗を払う。目の前に広がる砂漠へと足を踏み出すたびに、足にまとわり付く疲れに気力すら奪われていく気がした。 斜め前を歩くレオの背中に目を向けると、逆光のせいなのかその姿は光に霞んで見えた。 もうずっと前の出来事のような気がしていたけれど、考えてみれば、旅を始めてからも、…あの時からも大した時間は経っていないのだ。 視界の端で何かが揺れたと思った次の瞬間、フランの悲鳴が耳を打つ。何事かと振り返れば、膝を落としたシオの体が砂丘の向こうに沈もうとするところだった。 慌てながらも支えようとしたフランは、けれど慣れない砂に足を取られて、シオの体ごと向こうへ消えてしまう。砂丘を半分降りかけていたレオは、ひとつ舌打ちをすると砂を蹴った。 砂丘の下では、フランが覆いかぶさるようにしてシオの体を揺さぶっていた。それを見たレオは、フランまで巻き込まれていなかったことに、ひとまず安堵の溜息を漏らす。年下とはいえ、気を失った人間を二人同時には運べない。 「あんまり揺らすな」 「でも防人さんが…!」 砂丘を滑り降りて、フランとは反対側に膝を着く。顔の半分を覆うフードをどけ、身じろぐ体を制して脈と呼吸を確認する。脈が少し速く、呼吸も浅い。顔色の悪さから、軽い熱中症だとレオは思う。 周りを見渡すと、さほど遠くないところに岩場が見えた。フードを被せ直し、小柄な体を背中に担ぐ。 「熱に中てられただけだ。お前は荷物を背負え。あの岩場まで行くぞ」 岩場の影にシオの体を降ろし、遅れて来たフランから荷物を受け取る。上体を支えながら水を含ませて、飲み下したことを確認すると砂の上に寝かせた。 取り出した布やら適当なものを丸めて足の下に置いてから、再びフードを取り、スーツの胸元をくつろげて、不安な顔で様子を伺うフランにシオの体を扇ぐよう頼む。 更に荷物を漁って布を取り出すと水に浸し、体温を下げるために体を拭いていく。近くで見ると、薄い体には傷跡が多く残っていた。 夜明け近く、岩に背中を預けていたレオは、シオの身じろぐ気配で目を開けた。弱まった焚き火の光の端で、むこうを向いたシオの体が丸められる。フランはシオを扇いでいた団扇を手にしたまま完全に夢の中にいるようだ。レオは、足元にまとめてあった薪を火の中へ放り投げた。 「起きたのか?」 「………、」 シオが掠れた声で何かを呟いたようだったが、空気に溶けてレオまでは届かなかった。 「…何だ?」 シオの顔を覗き込む。レオの予想に反しシオの目蓋は固く閉じられていて、苦しげに歪められた表情は泣き出す寸前のように見えた。 ―――うなされている。 身を引くべきか戸惑うレオの耳に、一度目よりもはっきりと紡がれたシオの言葉が届いた。 「死なないで、…ここにいて」 目の奥に鋭い痛みが走る。 「―――、」 消えたはずの偏頭痛が戻ったような感覚を、レオは頭を軽く振ることで追い払った。目蓋の裏で、忘れようのない光景が揺れる。わずかな隙間から差し込む光、その向こうに倒れるふたつの体。 (死なないで、ここにいて) 自分には、悔いるように落とされたこの言葉が、一体誰に向けられたものなのかは分からない。それどころか、目の前で身を固くする小さな体について、名前以外に確かなことを知らなかった。 無意識に伸ばされた指が、短い髪を静かに梳く。砂と日差しに痛んでいても、指先からは子供特有の柔らかさが感じられた。 「………いるだろ、ここに」 ぐしゃりと乱暴に髪をかき回して、手を離す。強張ったシオの体から、少し力が抜けたように見えた。 元の位置に背中をもたれると、剣を抱えてうずくまる。白み始めた空を横目に、レオは再び目を閉じた。 END
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清い仲と言い張る。レオとシオが仲良くなったら嬉しいですよね!(同意を求めるな) 最後まで読んでくださってありがとうございました! 雛谷色葉(20050205:日記にて公開、20050325:アップ) |