17:溢れ出てくるのはどろどろとした醜い感情



 試合終了十分前、両チームとも得点なし。
 戦況が佳境に入り、白熱するフィールドにつられて応援する声にも力が入る。飛葉中側のフェンスには結構な人数の女子が群がり、選手に動きがあるたびフェンスの向こうへと黄色い声援を送っていた。

 そんなフェンスから少し離れた木の下で、将は試合を応援することもなくぼんやりと立っていた。
 ほとんど引っ切り無しに黄色い声を上げる集団をチラリと見やると、小さな溜息をつく。それから足元に視線を落として、やっぱり来るんじゃなかったな、と呟いた。



『明日って予定あいてる?』

 昨日の夜、携帯に電話をしてきた翼は開口一番にそう訊いた。部活の練習がない休日を前にして、何をして過ごそうか決めかねていた将は、空いてますよ、と素直に頷いたのだが。

『じゃあ、明日の練習試合見に来ないか?』

 そう続けられた翼の言葉に、自分の答えを後悔した。

 飛葉中はサッカーにあまり力を入れていないようだが、それでもサッカー部には女子のファンが多い。自分たちが飛葉と練習試合をしたときもそうだったように、試合となればタオルや差し入れを持った女子が、たとえそれが他校であったとしても応援のために集まる。
 それに対して初めは「すごい人気だな」としか感想を持たなかった将だが、翼と付き合う少し前辺りから心境が変わった。

 翼が差し入れやタオルを受け取っている姿を見ると、胸の奥に妙な感情が滲んで、わだかまりが残る。

 いつまでもすっきりとしない気分を引きずって、素直に勝利を祝うことができなくなってしまう。そんな心ない自分が嫌で、将は練習試合をあまり見に行きたくなかった。



 結局、予定が空いていると言ってしまったために断ることができず、将は気の進まないまま練習試合を見に来ている。
 フェンスに集まる女子に近づいて試合を応援する気持ちになれなくて、重たい気分のまま少し離れたこの場所にずっと立っていた。これじゃあ何しに来たのか分からないじゃないか、と心の中で呟いて、俯いたままもう一度溜息を落とす。
 その瞬間、甲高いホイッスルが鳴り響き試合の終了を告げた。



 結果は飛葉中の勝利だった。
 いつものように翼やら選手たちを取り囲む女子の影がなくなった頃、将は翼に声をかけた。

「お疲れ様でした。おめでとうございます、翼さん」
「サンキュ」

 言いながら本当に嬉しそうに微笑まれて、応援どころかロクに試合を見てすらいなかった将は申し訳なさで泣きたくなる。
 いたたまれなさで俯くと、翼のスポーツバッグが目に入った。開かれたままの口から、色とりどりのラッピングが覗いている。応援していた女子からの差し入れだと気付いた瞬間、またいやな感情が胸の奥に沸いた。

「―――たくさん貰うんですね」

 まるで吐き捨てるような口調に、将は驚いて口元を押さえた。
 そろりと顔を上げると、きょとんとした表情の翼と目が合う。聞こえなかったかも、という期待が打ち砕かれて、サアッと背中に冷たいものが走った。言った自分にすら冷たく聞こえたのだから、相当に乱暴な口調だっただろう。

「翼さ、ぅわッ?!」

 今までの嫌な感情が翼に知られてしまう、と焦りながら口を開いた瞬間、強い力で肩を引き寄せられた。体当たりに近い勢いで翼にもたれかかった将は、何事かと翼を見上げる。
 ―――と、触れそうな距離で目が合った。

「嫉妬?」



 ニヤ、と口元を引き上げた翼の顔をしばらく呆然と見やって、

「―――!」

 理解した。
 カアッと体が熱くなる。恥ずかしい。恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。何がって、翼に見抜かれたことはもちろんだが、あの嫌な感情が嫉妬だと気付けなかった自分の鈍さが恥ずかしい。

 その反応は自分で気付いてなかったんだろ、というやけに嬉しそうな翼の声を聞きながら、やっぱり来なければ良かった、と将は思った。



END



 一本目はほのぼの!という信念に基づいて翼将。
 話にはまったく表れてませんが、飛葉中の部員が六人しか思い出せなかったのでそれしかいない設定で書きました(サッカーできないよ)

 最後まで読んでくださってありがとうございました!
 管理人、雛谷色葉(20050927