真剣勝負。



 張りつめた空気が、部屋中に漂う。
 その原因である二人は、部屋の中央に向かい合って立っていた。瞬きすらせずに、鋭いまなざしでお互いを睨み付けている。

「覚悟は良いな?」

「…いつでも。」

 固い声で短い会話を交わすと、ゆっくりを息を吸い込んだ。
 頬を伝った汗が、音もなく床に消える。

 堅く握った拳に更に力を込めると、相手から目を逸らさないまま、不敵に唇の端を持ち上げて―――






「―――…じゃんけんぽんっ!」



 …結果、普賢がパーで太公望がチョキ。

「…よっしゃあ!」

 この世の終わりのような表情で屈み込む普賢を後目に、太公望は大きくガッツポーズをする。

「では頼んだぞ?」

「……わかってるよ。」

 満面の笑みをたたえた太公望が、団扇を普賢に手渡す。そして、自分は寝台の上に寝転んだ。
 しばらく悔しそうに団扇を睨んでいた普賢だったが、溜息をひとつ落とすとベッドの端に浅く腰を掛け、手にある団扇で太公望を仰ぎ始めた。

「極楽じゃ〜。」

「…そ。」



 仙人界の夏は暑い。上空にあって遮る物が何一つないので、太陽光が直接当たるからだ。多く肌を露出していると火傷をしかねないため、道服は、夏物でも長袖が多い。
 肌を出せば火傷をする。頭では理解できても、体の方が納得してはくれない。長袖は、あつい。

 そこで太乙が太陽光で動くクーラーを発明し、問題はなくなった。

 では何故、この二人がこんな不毛な戦いを繰り広げていたのかと言えば…早い話、クーラーが壊れたからである。
 いや、クーラーと言うよりも、リモコンが。



 つい昨日の話である。

「普賢、クーラーのリモコン知らぬか?」

「…リモコン? え、どこやっただろ。」

 修行の後、普賢の後にシャワーを浴びてきた太公望が、珍しくタンクトップの上に何も羽織らず、頭にタオルを引っかけた状態で部屋に顔を出した。

「………何やっておるのだ、おぬし。」

「だって、そんな格好で出てくるの珍しいから。」

 気が付けば、普賢に抱きすくめられていて。この状況はなにかと聞けば、なんだかよく分からない台詞が帰ってきた。

「理由になっとらんわ! 離せ!」

 ジタバタと藻掻けば、腕に込められた力が更に強くなる。そして、思いっきり体重を掛けられた。太公望の足は二人分の体重を支えきれず、後ろにあるソファへ倒れ込む。

 バキッ!



「「………え?」」



 おそるおそるクッションを持ち上げてみれば、そこには探していたクーラーのリモコンが―――二人分の体重に潰された哀れな姿で横たわっていた。

 すぐさま直して貰おうと太乙の元へ向かったのだが、洞窟の入り口に貼られた置き手紙によると、一週間ほど帰ってこないらしい。
 クーラーはリモコンでしか起動できないため、これから先一週間、クーラーは動かない。
 そこで、あのじゃんけん大会となったわけである。



 今日は普賢の負け。明日の勝負の行方や如何に?



END




 うう、普通の小説に使えたなあ、このネタ…。ええと、暑中見舞いも兼ねまして。

色葉(20020902)



 ギャグが書けるようになりたいなあ。てゆか普通の小説の長さだな…。サイト移転に際し、手を加えました。

雛谷色葉(20050325:加筆修正)