あめいろのカーテン。







 窓に打ち付ける雨音に今、気が付いて、一体いつから降り始めたんだろうと白いカーテンの隙間から空を仰いだ。途端に響いた雷に身をすくめてカーテンの隙間から遠のく。ジワリと心の内側から滲み出るように上がった不快指数に眉をひそめると、読みかけの本を閉じてダイニングへ向かった。

(何だろう。)

 この、まとわりつくような空気は、と心の中で呟く。その空気のせいでダイニングまでの道のりがいやに長く感じた。雨雲で隠れた太陽のせいなのか妙に暗いダイニングに入り、パチリと軽い音を響かせながら電気を付ける。

(何だろう。)

 明るめの蛍光灯に照らされたダイニングにも違和感が漂っていて、首を傾げながら重い空気をまとった体を引きずって歩いて行く。食器棚から大きめのマグカップをゆっくりと取り出して、一人で使い切るには大きすぎるインスタントコーヒーのビンが入っている棚に手を伸ばす。背伸びをしなければ届かない所にあるビンを両手ででとって、ビンを傾けながらそれ様のスプーンで小さな豆をすくいだしカップに入れた。

(何だろう。)

 小さなスプーンに山盛りで二杯。砂糖はその半分の一杯だけ。やかんに沸いていたお湯を並々と注ぎ、さっき使ったスプーンとは別のスプーンでかき混ぜる。初めは薄かった色が一回かき混ぜただけで黒に染まるが、それでは満足出来ないようにカチャカチャと音をたてて不必要にかき混ぜると、突然手を止めて流し台にスプーンを投げ捨てた。

(何だろう。)

 綺麗に洗われたステンレスの流しに響いた音には耳を傾けずに、ダイニングを出ていく。ダイニングを出るときに電気を消そうとスイッチに手を伸ばして、だけど何もしないまま手を降ろす。軋む廊下の音をたてないようにして歩きながら、コーヒーを一口だけ飲み下した。

(何だろう。)

 熱さよりも苦みだけを感じるコーヒーを胸元まで下げると、重い空気を引きずったまま諦めたように廊下を歩く。先程までいた部屋の敷居をまたぎ顔を上げて、その光景に目を見開いた。



 あめいろの、カーテン。










 雷が怖ぇーのか?だからまだまだガキなんだ。
 人間ひとつくらい怖ぇものがあってフツーなんだよ。



 電気くらい自分でつけろって言ってんだろうが!
 まだ明るいし無駄だろ!



 何でんなに掻き混ぜんだ。
 こーやった方が混ざってる気がすんだろ。



 そんな苦ェの飲んでると歳なんだから胃ぃ悪くなるぞ?
 何だ、心配してくれてんのか?



 ちょっとくらい驚けよなー。
 お前の足音はでけぇから分かっちまうんだよ。










 青いカーテン?イヤだよこんな色。
 いーじゃねぇか。俺は青が好きなんだ。










 もう高校生になったってゆうのにいつまでも頭を撫でるクセと抱き寄せるクセが直らない人だった。嫌がってない自分に気付いていたけど、そんな事を悟られるのは悔しくて恥ずかしくて反発してばかりいた。

(何だろう。)

 するりと手から落ちたカップを気にせず、歪んだ景色の中を走って勢い良くベッドに潜り込む。ガン、と低い音が響いて床に真っ黒な染みが広がった。雨の色を吸い込んだカーテン。泣いたら更に青くなってしまうのではないかと、タオルケットを握りしめて膝に目をこすりつけた。

(何でだろう。)

 どうしてあの人は、ここにいないんだろう。






END...






 初出しは日記でした。八月一日。閉鎖されるサイトさんが多くて、気が滅入っていたときに書いたモノです。書いたときも雷雨でヒヤヒヤしてました(笑)。



 創作としては初めて褒めていただけたものなので、自分でも気に入っています。移転に際し、手を加えました。

雛谷色葉(20050325:加筆修正)