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I can't help needing you. 部屋の隅で鳴り出した電話にふと目を開ける。ベッドの上に横たわったままで、久しぶりに聞いた気がするそれの方向に、何の感慨もなく視線を動かす。無視してしまおうか、とも考えるが、切れる気配のない音に、仕方ないかと体を起こした。―――いや、起こそうとした。 「―――…う、わ…、」 ベッドに腕を着き、上半身を起こしたところで、ぐにゃり、と視界が歪む。平衡感覚をなくした体は、重力に逆らえずにベッドへと逆戻りした。 「………、ヤバ…。」 耳元で、ぅわん、と羽虫の飛ぶような音がしたかと思うと、それは頭の先を突き抜けるような耳鳴りに変わった。一切の音を遮断して頭蓋に響く高音に、思わず耳を塞いで目をつぶる。 (ヤ、バイ…、) 目を閉じていても、ぐるぐると世界が回っているような感覚を覚える。胸の奥が圧迫されたように上手く息が吸えない。込み上げる吐き気を飲み込むために、唇を噛み締めた。 (ヤバイ―――…!) 甲高い耳鳴りは、頭痛を引き起こす。上下左右関係なく揺さぶられる感覚に、ベッドに仰向けに横たわっている、その認識さえ不安になって、身を縮めて横に寝返りを打った。 その動作で布団からたった微かな香り。 途端、ふっ、と全てが治まった。 「――――――、」 ゆっくりと目を開けて、耳に当てていた手を外す。少し滲んだ視界に移るのは、さっきまでと何も変わらない、窓から差し込む陽の光に照らされた部屋で。詰めていた息を、深く吐き出す。 電話は切れてしまっていた。 「………っ、情けない…。」 苦しみの名残だけでなく、視界が滲んでいく。情けなかった。彼がいなければ生きていけない自分も、彼を信じ切れなかった自分も、それでもまだ彼を必要としている自分も。 フェアリー、ニンフ、妖精…。お伽噺に良く語られる彼らは、想像されている姿からは離れているものの、確かにこの世に存在している。 実在の妖精は、肩に乗る大きさなどではなく、見た目はほとんど人間と変わりない。外見以外では、睡眠をとらなくても良いこと、寿命が極端に長いこと、食物を取り入れなくても良いこと…など人間とはかけ離れているが。 生息する場所は、綺麗な河の側や森に限定されていなくて、ある条件の下ならば、彼らはどこにでもいることが出来るのだ。 その条件とは―――人にその存在を認められること。 昔…人々が自然と歩んでいた時代は良かった。彼らは自然の起こす現象を全て受け止め、それを当然のこととして受け入れた。河や森にはもちろん、妖精のいる町は平和な証拠だとされていた。 だが、今の時代で、それが如何に難しいかは、説明せずとも理解することができるだろう。科学が隙間なく敷き詰められた世界で、信じてくれる人を失った彼らは次々と消えていった。 それでも、余所者の立ち入りを禁じている村や家、昔の人と同じ心を持っている人―――そう言った、彼らを認めてくれるごく僅かな存在の側でなんとか生きていた。 ―――どうしたの? およそこんな山奥には似合わない格好の子供に声をかけられた。その時の自分は、今まで必要としてくれていた人を亡くしてしまった直後で。行く当てもなく、人目に付かない小さな森に座り込んでいた。 ―――必要としてくれる人を、探しているんです。 そんな人なんて、どこにもいないのは分かってる。冷たくなって透き通っていく指先がその証拠だった。木の下に踞ったままで、もう動くことすらままならない。 ―――どうして? 腰まである雑草をかき分けて、その子供が一歩だけ近付いてくる。その子供に向かって、半分以上透き通ってしまった指先を見せた。 ―――そうでないと、生きていけませんから。 なんて不便な体だろう。自分の指先を見て、大きな眼鏡に隠された瞳が大きく見開かれた。自分の存在の異常さを改めて突きつけられて、キッドは諦めた気持ちで唇の端を持ち上げた。 けれど、逃げ出すかと言う予想に反して、その子供は更に近付いて来た。手を伸ばせば触れられるほどの距離までくると、目線を合わせるように自分の前にしゃがむ。逆光に透けた瞳は、綺麗な蒼をしていた。 ―――誰にも、必要とされてないの? 月日は流れて―――自分に手をさしのべてくれた子供は、もう子供と呼ばれる年齢を過ぎた。腰辺りまでしかなかった背丈も、最近では自分と同じくらいになっている。絶対に追い抜かしてやる、と宣言されたのはいつだったか。とりあえず、その目標はまだ達成されていない。 (…ああ、懐かしいな。) 視線だけを動かして、彼のいない部屋を見回す。 絶対に裏切らない。そう言ってくれた彼を、心のどこかで疑っていた罰だろうか。あまりにも純粋に自分を認めてくれた彼を、失えない、そう思う反面、いつか離れなければいけない、そう思っていた。彼は自分を必要としなくても生きていけるから、と。 だから、彼がこの家を出ていくたびに、もうここへは戻ってこないのではないかと不安だった。 ―――…一週間、ですか? 一週間、家を空ける。もう全ての用意を済ませて、鏡の前でネクタイを合わせている彼から告げられた。 ―――ああ…、マズイか? 心配の色を瞳に滲ませて振り返った彼を嬉しく思う。そう言えば彼が一週間も自分の元を離れるのは初めてで、不安に思っていてくれたのだろうかと、自然と笑みが浮かんだ。 ―――いいえ、そのくらいなら。 笑みと共に否定すれば、彼も安心したように微笑んでまた鏡に向き直る。 その彼の安心したような微笑みが、自分に向けられたものなのか、家を空けられることにたいしてなのかが分からなくて。そう考えたら、何かを思う前に口が勝手に動いていた。 ―――どうして、私をここに置いてくれるのですか? ネクタイを締め終わった彼が、ネクタイに手をかけたままで再度こちらを振り返る。 ―――何言ってるんだよ? 彼の怪訝そうな顔を見て、止めなければ、と思うのに、もう止まらなくて。 ―――あなたには、私を必要とする理由がないのに。 彼はゆっくりと目を見開いた。なにかを言おうと開いた唇を噛み締めて、自分から目をそらす。ソファの背もたれに放って置いた上着を取ると、行って来る、と告げて足早に部屋を出て行った。 彼の傷ついた瞳が頭から離れない。 あれから、今日で一週間。今度こそ本当に、帰ってこないかもしれない。横を向いていた体を仰向けにすると、自分の手を光にかざす。 (いつまで保つのだろう。) 既に光に透けている指先は、輪郭を見ることすら難しくなっていて。このままだと―――今夜には、もう完全に見えなくなっているかもしれない。 手を下ろして溜息をつく。外に出れば、必要としてくれている人に会える可能性もある。けれど、それでは意味がないのだ。 彼以外の人に必要とされても、何の意味もない。彼だけに自分を必要とされたい。 自分で疑って、自分で壊したくせにそう思う。彼なしでは何をする気も起きなくて―――やろうとしても、もうマトモには動けないだろうけれど―――、寝てしまおう、とぼやける目を閉じた。 耳に入る騒音が、気のせいでなく前よりも遠く聞こえる。確実に駄目になっていく体に、それでも、彼に必要とされないなら消えても良いか、と思う。 そんな事を考えていた意識が、ふ、と眠りにつこうとした瞬間。 「KID?!」 勢い良くドアが開いた。 (―――え、) 急激に意識が浮上する。自分が彼の声を聞き間違えるはずがない。この声は間違いなく――― 「………新一?」 名前を呼びながら、体を何とか起こそうとする。が、途中まで体を起こした辺りで、体勢を崩してベッドから落ちそうになってしまって。 「KIDっ?!」 駆け寄ってきた新一に助けられて、ゆっくりとベッドに面している壁に背中を預けた。そこで初めて見た新一の姿は、どこから走ってきたのか、珍しく服そうが乱れていて、まだ息も上がったままだった。 「………しんい、」 自分の言葉を遮って、新一が抱きついてくる。 「何がっ、…平気…!」 「…え?」 「何が平気なんだよ?!」 まるで、力を緩めたら消えてしまうとでも言うようにきつく抱きついてくる新一を見る。出掛けに、一週間くらいなら平気、と行ったのは自分だ。微かに震えている新一の肩を見ながら、動かすのも辛かった体が、嘘のように軽くなっていくのを感じていた。 不謹慎だと想いながらも、口元に笑みが浮かぶのを止められない。 「…走ってきて、くれたんですか?」 「………悪いかよッ!」 電話に出ねえからだろ、と叫ばれて、ああ、あの電話は新一からだったのか、と思う。自分の体から緊張が抜けたのを感じ取ったのか、しがみついている新一の力が少し弱まる。 それでもまだ少し震えている肩を、暖かさの戻った腕で抱きしめた。 「平気じゃないなら、平気じゃないって言えよ…!」 「…ええ、すみません。」 ああ、なんて馬鹿だったんだろう。 自分を必要としていないなんて、どうして思ったんだろう。 抱きしめる腕に力を込めて、肩先に顔を埋める。いつだって自分を必要としてくれていた。失うことを恐れて、震えている肩が何よりの証拠。 もう、疑わない。 END. |
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………ううん(苦)。 初めは妖精が快斗だったりしたんですが、まじっく快斗を買い揃え、三巻の最後のお話でKIDにノックアウトされたため、K新になりました。(なんか新Kっぽいですが力一杯K新です。汗) 最後まで読んでくださって有り難うございました。 雛谷色葉(20021001) コンテンツ解体のため(いつの話だよ)、加筆修正のち再アップしました。色々痛いですな! 雛谷色葉(20040215) |