東京都内、某中学校。
そこで行われた選抜練習のあと、まだざわめきの残る更衣室を後にして、風祭は玄関の低い階段へ腰を掛けて誰かを待っていた。



declare



しばらくすると水野が更衣室から出てくる。水野は、階段へ腰掛けている風祭を見付けると、そちらへ歩み寄っていった。

「風祭?まだ帰らないのか?」

「うん、もうちょっとだけ。」

水野は少し難しい顔をした後、軽く挨拶をして帰っていった。
水野の歩いて行った方を何気なく眺めていると、後ろから頭に衝撃が走る。驚いて振り向くと、そこにいたのは椎名。

「翼さん・・・何するんですか。」

頭をさすりながら抗議しても、向こうから返ってくるのは悪びれの無い笑顔。

「お前がぼうっとしてるから悪いんだろ?それよりこんな所で何やってんのさ。」

「・・・人を、待ってるんです。」

ちょっとはぐらかしたような言い方で誤魔化す。椎名は少し何かを考えていたが、急に風祭の頭を撫でる。

「な、何するんですか!?」

「まあ、頑張りなよ。」

それだけ言うと、振り返らずに黒川達と帰っていった。その後ろ姿を見つめながら、椎名の言おうとした事がやっと理解できて、思わず顔を赤くする。



風祭が待っているのは彼の想い人。まだあんまり話した事もないけれど、それでも好きになってしまった人。初めて見たときから多少意識はしていたけれど、それを恋だと自覚したのは、つい最近。こんな気持ちは彼にとって迷惑なのが分かっているから、始めは打ち明けないつもりだったのだけど。ただ見ているだけでは、好きとゆう気持ちが大きくなるばかりで。

(駄目でもいいから、この気持ちを打ち明けたい。)

そう思って、今日やっと打ち明ける決心がついた。いつから知っていたのかは知らないが、椎名が言っていたのはその事。

「風祭っ!」

急な呼び掛けに驚いて顔を上げると、藤代の顔が目の前にあって更に驚いた。

「ふ、藤代君。」

「水野と一緒に帰んなかったんだ。じゃあさ、俺らと一緒に帰んない?」

申し出は有り難いが、今日は一緒に帰るわけにいかないのだ。だけど、満面の笑みで言われると、どうも断りにくい。

「・・・あ、えと・・・。」

少し後ずさりしながら困っていると、渋沢からの助け船が入る。

「だれかと約束をしているのか?」

「・・・あ、ハイ。」

本当は約束なんかしてなくて、自分が勝手に待っているだけなんだけど。

「それじゃあ仕方がないな、ホラ、行くぞ藤代。」

しぶる藤代を連れて帰っていく。その途中、渋沢が振り返って親指を立てるのが見えた。それに苦笑して深く頭を下げる。
響いていた藤代の声が聞こえなくなると、更衣室のドアが開く音が耳に入る。そして、続く想い人の声。

「風祭?」

「・・・桜庭くん。」

さっきまで騒がしかった周りの音が、急激に上がった自分の心拍音でかき消される。

「あのね。」

それでもなんとか声を絞り出して。

「ぼく、桜庭くんの事が、好きなんだ。」

不自然に途切れながらも告げた想い。その言葉の後に流れた沈黙で、急に不安になって。

「あ、あのっゴメン!嫌だったら構わない」

言いかけた否定の台詞は抱き寄せられた事で途切れる。

「・・・ったく。先に言いやがって。」

近くなった距離におさまりかけた心拍数がまた上がり始めた。

「俺も、好きだよ。」

言われた言葉が信じられなくて、勢い良く桜庭を見上げる。

「・・・本当に?」

「こんな事、嘘ついてどーすんだよ。」

抱きしめる力が更に強くなる。風祭は、嬉しそうに桜庭の胸に顔をうずめた。



end.

鮎さまへ捧げる小説、『将総受け気味で、最終的に桜庭くんか上原くん。会話を多め』でした。会話多くないし、しかも桜庭くん初書き・・・御免なさい!

雛谷色葉。