|
『もう受験なんだから。』 『これからは遊んでいられないんだぞ。』 かん! 珍しく真面目に机に向かっていた藤代は、頭の中で巡る聞き飽きた言葉に耐えかねてシャーペンを投げ出した。 (これから一年間も有るってのに) 溜息と共に急下降して行きかけた思考を元に戻そうと、勢い良く頭を振る。 それでもまだ傾いている思考にふと、小さな恋人の事がよぎった。 やっとの事で振り向かせた、自分よりもずっと小さな恋人。 風祭 将。 (あー、風祭どうしてんのかな・・・) ゆっくりと椅子の背もたれに体重を掛けながら、将の顔を思い出すために眼を閉じる。 そこで、藤代は大問題にぶち当たった。 将の顔が、思い出せない。 (・・・へ?) そう言えば、もうずっと会っていない様な気がする。 椅子から立ち上がり壁に掛けてあるカレンダーを勢い良く捲って、指で日付を逆流していく。 やっと見付けた『風祭と待ち合わせ』の文字は、今から遡ること約3週間前。 (3週間・・・) 椅子から立ち上がったままで、机に両手を置いて俯いていると、突然後ろから笠井に呼び掛けられた。 「何やってんの、藤代?」 笠井からすれば藤代に声を掛けたのは突然でも何でもなく、むしろ一人で座ったり立ったりしている藤代に突っ込みたい気持ちを頑張っておさえていたのだけど。 「・・・三生(一生x3)の反省。」 落ち着いた頃を見計らって声を掛けたつもりだったのだが、藤代から返ってきた言葉は一人で百面相をしていた時より更に意味不明で。 その立ち直りの鈍さに、百面相の原因が風祭な事が分かった。 風祭に惹かれている笠井にとって、風祭がらみで落ち込んでいる藤代を慰めること以上に面白くない事はないのだが。 しかし、いつまでも目の前で落ち込まれている方が遙かに面白くない事を、笠井は今までの経験から知っている。 そのため、したくもない助言をしない訳にはいかなかった。 「・・・藤代。」 「何?」 背景にブルーブラックを背負って藤代が振り向く。 「今週の日曜、部活ないって知ってる?」 瞬間、藤代の背負っていた背景が反転するのが見えた。 「っしゃあ!ナイス笠井!」 満面の笑みで大きくガッツポーズ。 あまりにも想像通りの行動。 三上先輩の気持ちが分かりたくもなる。 「・・・なんてね。」 「マジ?!」 やっぱり予想通りの行動に、思わず吹き出した。 「冗談だって。今週はほんとにないよ。」 「〜驚かせんなよ!」 声と一緒に薄い雑誌が飛んでくる。 それを抱えていたクッションでかわして、代わりに藤代の携帯を充電器からはずして投げた。 「ホラ。善は急げだろ?」 「・・・だな、サンキュー!」 バランス良く携帯を受け取って、勢い良く部屋を飛び出ていった。 廊下を走る音がだんだん遠くなって、すぐに聞こえなくなった。 「・・・損な役回り・・・」 軽く溜息を吐いて、藤代が開け放していったドアを閉める為に立ち上がる。 と、開いたドアから人影が覗いた。 「渋沢先輩。と、三上先輩。」 「取って付けたように言うんじゃねぇよ。」 「見えなかったんですから仕方がないでしょう。渋沢先輩、何かあったんですか?」 くってかかる三上を軽くかわして、隣で苦笑している渋沢へ話しかける。 「いや、藤代が凄い勢いで駆けていくのが見えたんだが・・・何かあったのか?」 この二人が、風祭に友情以上の感情を持っていることを笠井は知っている。 風祭が選んだ相手が藤代だと承知の上で、まだその想いが続いていることも。 一瞬迷ったが、隠したとしても後が恐ろしいので正直に話す事に決めた。 「あー・・・例の恋人と会う約束をするみたいですよ。」 恋人、の言葉に空気が一転する。 一瞬の空白の後、口を開いたのは渋沢だった。 「いつだか、知っているか?」 笑顔だけはいつものまま。 声が心なしか低い。 笠井は背筋に何かが走るのを感じたが、気付かない振りをして渋沢の質問に答える。 「えー、多分・・・今週の日曜、です。」 「・・・今週の日曜、な。」 渋沢の返事の後、またしても沈黙が流れる。 それを破ったのは三上。 「・・・ま、藤代にはせいぜい楽しんで貰おうな。」 うっすらと笑みを浮かべてそれだけ言うと、渋沢と共に帰っていった。 日曜日、何故か大人数で遊ぶ事になったというのは、また別のお話。
普太ネタを考えながら、郭将を書きたいなと思って
翼将を書いたら何故か藤将が出来上がりました。 ・・・あれ? 藤将って言うより武蔵森X将なんじゃ? しかも将が不在ってどうゆう・・・ さ、最後まで読んでくださって有り難う御座いました。 雛谷。 |