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藤代誠二、花の14歳。
現在、叶わぬ恋をしています―――






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「バカは風邪引かねぇってのは嘘なんだな。」

体温計を睨みながら三上がそう言う。いつもならくってかかる所だが、流石にそんな元気は持ち合わせていなくて。

「じゃ、三上先輩も風邪引くんですね。」

水の張った洗面器とタオルを抱えて部屋に入ってきた笠井の言葉に感謝する。言い返そうと振り返った三上の言葉は、後ろから渋沢と一緒に入ってきた人物に遮られた。

「藤代くん、大丈夫?!」

これには藤代も驚いた。軽く首を起こすと大きな袋を抱えた風祭が目に入って。あまりの嬉しさに熱なんか吹っ飛んでしまうんじゃないかと思った。

「風祭…。」

「渋沢先輩から藤代くんが風邪引いたって聞いて…。」

コートを脱ぎながら心配そうな顔付きでベッドに近寄ってくる。

「…熱、どのくらい?」

「38度5分。」

三上がまだ電源の切っていなかった体温計を風祭の顔の前に差し出す。その数字を聞いて風祭の顔色が変わった。

「38度5分って…薬とか飲んだの?!」

「まだなんだ。ちょうど風邪薬の控えがなくて。これから買ってくる所なんだけど。」

水に濡れたタオルを藤代の額に置いてコートを羽織った笠井が答える。三上もコートを羽織るとメモ用紙を持って出ていった。

「さてと、じゃあ風祭。」

「ハイ。じゃあ藤代くん、何か暖かいものつくってくるね。」

袋を抱えて部屋を出ていく二人の背中を、藤代は複雑な思いで見送った。






藤代の想い人である、風祭将。どんな相手だろうと諦めない意志の強さと、何をしでかすのか予測のつかないプレイ。負けられないと思った。格好良いと思った。気が付いたら、頭から離れなくなっていた。
だけど、どんなにこっちが好きだって、向こうが意識してくれなきゃ意味がない。だから機会が有ればアプローチを忘れた事はなかった。そんな事を続けて、もしかしたら振り向いてくれるかもしれない、とゆう希望が最近見えてきたのだけど。
最近、風祭の態度の変化に気が付いてしまった。ある人と話す時にだけ、他の誰にも見せない柔らかい表情を見せている様な気がするのだ。

そのある人とは、我らがキャプテン渋沢克郎である。






(…キャプテンなんかに敵わねぇよなぁ。)

病は気からとゆうのは本当なのかと思いつつ、弱気になってしまった気分に渇を入れるために、なま暖かくなってしまったタオルを洗面器の中に投げ込む。と、強く投げすぎたタオルは洗面器ごと向こう側へ落ちてしまった。

「…わーお…。」

重い体を無理矢理に起こして、濡れた床を拭く。元通りとは行かないまでも水気のなくなった床を見て、とりあえず満足をした。そして汚れた水の入った洗面器に視線を移す。

(…水、取り替えに行かないとな。)

それ以外は選択肢が思いつかなくて、動作をする度に眩暈のする体にむち打って洗面器とタオル片手に部屋を後にした。






水道を求めて食堂までの道を歩く。風祭と渋沢が食堂の調理場を借りて料理をしているのだろう、食堂に近づくにつれて独特のいい香りが強くなっていく。その香りに気分が良くなりつつも、風祭と渋沢とゆう組み合わせを思うと笑顔が引きつる。
複雑な思いを抱きながらも食堂に着くと、いつもは開けっ放しの扉が閉まっていた。中に入ろうと少し扉を引いた所で、風祭と渋沢の会話が聞こえてきて藤代の手が止まる。

「…好き、です…。」

恥ずかしがるような風祭の声。思わず落としそうになった洗面器を抱え直して、音をたてないように扉を閉めた。
そして、その場にしゃがみ込む。

(…やっぱり、かー…。)

自分の頭の中で予想がついた時も結構なダメージを受けたが、告白シーンを目の当たりにするのとでは、やはり受けるダメージが桁違いで。訳もなく天井を仰ぐと力無く苦笑する。






結局、水を取り替えずに部屋に戻ってきた藤代は、洗面器を元の場所に戻してベッドに潜る。

確かに渋沢は格好良い。あの三上だって認めてるんだから、それは誰から見たって間違いないだろう。それに風祭は渋沢のことを尊敬していた。それが恋愛感情に変わるなんて、ドラマなんかじゃ良くある展開だ。

(お似合いだよな…。)

心の中でそう思う。結局認めてしまっている自分が情けなくて、また溜息に近い苦笑を漏らす。






と、まあ勝手に片づけてしまった藤代だが。

藤代が洗面器の水をぶちまけていた頃、食堂では流石家事が得意な二人のこと、調理は順調に進んでいた。そして、どこでどうなったのか今二人は好きな人について話をしている。もちろん、口と平行して手も動かしながら。

「風祭は好きな人とかいるのか?」

「えっ?!」

過剰な反応と共に、風祭が勢い良く首を振る。と言うか、もう既に好きな人の予想くらいはついているのだけど。必死に首を振る風祭が面白くて、知らない振りをする事にした。代わりに、恐らく風祭の好きな人である名前を出してみる。

「…藤代は確か好きな人がいるって言ってたな。」

渋沢の一言に将が首を振るのを止めて、渋沢を仰ぎ見る。その予想通りの反応が面白面白くて、思わず吹き出してしまった。

「な、何で笑うんですか?!」

すまないと言って視線を上げると鍋が吹きこぼれているのが目に入る。それを慌てて止めてから会話を再開させた。

「本当に好きな人はいないのか?」

「…いません。」

「藤代の好きな人知りたくないか?」

風祭の台詞のあと、そう言うだろう事が解っていた渋沢は間髪入れずに言葉を返す。

「〜〜〜っ。」

顔を赤くして見上げてくる風祭に、いつものままの笑顔で答える。もうここまで来ると隠している意味なんてどこにもない。

「好きなんだろ?」

答えやすいように少し質問を変える。赤い顔のまま目を逸らした風祭は思い切ったように溜息を付いた。

「……好き、です。」

風祭の言葉を聞くと、渋沢は風祭に背を向けると食器棚の方へ歩いて行く。そして適当な食器に出来上がった雑炊やらを盛り付けるとトレイに乗せて風祭に手渡す。その手際の良さに黙って渋沢を見ていた風祭はそこで我に返った。

「…あの…?」

「暖かいうちに食べて貰わないと味が落ちるだろ?」

「そうですねって…渋沢先輩っ?」

思わず渋沢に背を向けて藤代の部屋に向かいかけて、はぐらかされた事に気付いた。

「何だ?」

「藤代くんのっ…好きな人を教えてくれるんじゃ…。」

肩に手を置いてUターンをさせられると、そのまま渋沢が後ろについて扉までの道を歩いて行く。

「藤代に聞いたら良いんじゃないか?」

「…せっ先輩、ずるいっ!」

振り返って抗議しようとする風祭を扉の向こうへ押しやると、渋沢は扉の手前で手を振ってから調理場へとUターンした。






藤代に聞くなんて、そんな事できる筈がない。今日、自分が顔を出したときもそうだったが、最近なんだか藤代が自分に対して遠慮しているような気がするのだ。
気にしすぎだと言われればそれまでの事だから、どうしても一歩踏み込んで藤代に聞く事が出来ないでいたのだけど。

(…でも、今日は聞いてみよう。)

迷惑だと思われているのなら、無理に付き合って貰わなくても良いように言おうと決意する。そして、もしも迷惑だと思われていないなら、この気持ちを打ち明けてみよう、とも。
藤代に好きな人がいるのなら、早めにはっきりさせておいた方が藤代に恋人が出来たときに素直に喜べる。
決意した風祭は、部屋の前で立ち止まると、大きく息を吐いてから扉を開けた。





廊下から足音が聞こえて、控えめに扉が開く。

「藤代くん、雑炊つくったんだけど…食べれそう?」

開いた扉から覗いた顔に、喉が詰まるような気がして。返事がワンテンポ遅れてしまう。

「…ん、ああ、食べれる。」

体を起こしてトレイを受け取ると、雑炊の言葉に例のモノが入っているんじゃないかと思わず探してしまった。そんな藤代を見て、風祭が笑いを漏らす。

「ニンジンは入ってないよ。」

「マジ?!」

「栄養付けないと駄目だけど…渋沢先輩とも話し合って、風邪だからサービス。」

渋沢先輩、の言葉に笑顔を返すのが精一杯で。その反応を見た風祭が、申し訳なさそうに口を開く。

「…あの、ごめんね。僕が来たの、迷惑だった…?」

予想外の風祭の発言に、思わず口に入れた雑炊を噛まずに飲み込んでしまった。

「な、何で…。」

「…藤代くんが最近ずっと遠慮してるような気がしたから…。」

「そんな事ない!ちょっと体の調子が悪かっただけだよ!」

いきなり大声を上げた藤代に少し驚いたけど、否定してくれた事が嬉しくて笑顔になる。

「…良かった。」

風祭の笑顔を見て、藤代も思わず笑顔になる。

(…良いか、風祭がキャプテンを好きでも。)

風祭が笑顔でいるなら。雑炊もおいしいし、ニンジンも入ってないし。これで薬を飲めば、風邪も治るだろうし。






扉の外では、風邪薬と買ってきた笠井と三上、片づけの終わった渋沢が部屋に入れなくなっていたりするのだけど。

「何いちゃついてんだよ、あいつらは。」

「…何であれでお互い気が付かないんだろうな…。」

「知らないのは二人だけってヤツじゃないですかね。」



end.
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藤代偽物疑惑。結局告白させられませんでした。御免なさい。これじゃ藤将じゃないですよね…。笠井くんが無敵に素敵だし。精進したいです。次こそは。

最後まで読んでくださって有り難う御座いました。

雛谷。