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嘘は、あんまり好きじゃないな。 何気ない会話の中で、最愛の人がいった言葉。 空は快晴。窓から差し込む光は柔らかくて、吹き込む風も気持ちいい。いつものように寮に住んでいながらも遅刻ギリギリで登校した誠二は、教室のざわめきと担任の声とを子守歌にして早くも眠りにつこうとしていた。その途中、何気なく仰ぎ見た黒板の日付で眠気なんてどこかへ飛んでいってしまうのだけど。 今日は5月10日。 そう、彼の恋人…風祭将の誕生日だ。 はあ。 窓際に座りつつ窓の外を眺めていた将は、頬杖をつくと同時に溜息を吐き出した。後ろの席で同じように頬杖をついていた茂樹は、その溜息を聞くといきなり将の後頭部に裏拳をかます。 「ったぁー…なっ何するんですか?!」 「何はこっちの台詞や!朝からけったいな態度とりよって。気分悪うなってしゃあないわ。」 立ち上がって抗議する茂樹に、いつもなら強気で言い訳もするのだけど。今日はそんな元気はなくて、ちらりと茂樹の顔を伺うと直ぐに下を向いて溜息を吐く。 「…何かあったんか?」 負けず嫌いな将が、言われもなく突っ込まれて言い返してこないなんて珍しい。それどころか落ち込んだ顔で俯いてしまった。溜息を止めろとゆう茂樹の意見が無視されているのは、この際だから置いておこう。 立ち上がっていた茂樹は、静かに椅子を引き寄せて座ると先程とは正反対の声色で話しかけながら将の顔を覗き込む。 「えっ、あ、いいえっ!何でも、ない…。」 「…。」 真面目な顔の茂樹がいきなり目の前に現れたことに驚いて、上半身だけで後ずさる。何でもない、と告げようとしたが、瞬きひとつしない茂樹の目に語尾は吸い込まれてしまった。 (シゲさんに嘘をついても…仕方ないか…。) 強張った顔を緩めると、苦笑を交えた溜息をもう一度つく。笑わないで下さいね、と前置きをしてから、将は理由を話し始めた。 「今日、ぼくの誕生日なんですけど…。」 茂樹も将の事を想っているわけで、誕生日なんてものは昨日のうちに思い出しているのだけど。それを感づかれるのも癪なので、さも今思い出したかのように言ってみる。 「そう言えばそうやな。それがどうかしたんか?」 「藤代くんと一緒に遊ぼうって約束してたんです。でも連絡がとれなくて。昨日は藤代くんからも電話が掛かってこなくて。」 俯いて話す将の頬が微かに赤くなっているのが見える。真面目になって聞いていた茂樹は口元が引きつるのを感じた。 「…寮には電話したん?」 「携帯だけ…です。」 くそ真面目な将のこと、私情だけで寮に電話を掛けるのは気が引けたのだろう。学校が終わったあとに会いに行く、とゆう考えも、迷惑になるかもしれないと考えて既に選択肢からは外れているに違いない。お人好しを通り過ぎた将の性格には、もはや感心するしかない。 「…ん!」 「シゲさん?」 しばらく続いた沈黙のあと、茂樹は椅子を鳴らして立ち上がる。不思議に思って声を掛けると、何も答えない代わりのように将の頭を軽く叩いた。 「…?」 口元だけで笑うと、何も言わずに教室のドアに向かって歩いて行く。目線だけで茂樹を追っていた将は、茂樹がドアをくぐり抜けた所で我に返った。 「…あっ!シゲさん、どこ行くんですか!?もう一時間目始まりますよ?!」 声が届かなかったのか、何の返答もせずにドアをくぐって行ってしまった。ドアのガラスから茂樹の姿が見えなくなったときに丁度チャイムがなり、教師が教室に入ってくる。将は茂樹に叩かれた頭を押さえながら前に向き直った。 (…どうしよう。) 眠気の吹っ飛んでしまった誠二は、真っ青な顔で頭を抱えていた。…相変わらず授業の内容は耳に届いていない。 (よりによって風祭の誕生日を忘れるなんて…。) どうかしている、と誠二は自分の記憶力を疑う。確か5月に入った時点では覚えていたはずなのだ。それが最近、部活が忙しくて忘却の彼方に行ってしまっていたらしい。そこまで自分の記憶を反芻して、はたと思い出す。 (…俺…風祭と遊ぶ約束してなかったか?!) それと一緒に携帯の電源を切っていたことも思い出す。昨日は試合が近いせいかいつもより練習がハードだった。だから、何とかとゆう写真投稿雑誌に載ってしまったせいで(亮が面白がって誠二に無断で送った)送られてくる大量のメールに我慢がならなくて。50回目のメール着信音がなったところで携帯の電源を切ってしまったのだ。 (ひょっとして風祭…電話してきたかな…。) してきただろう。してきたに決まっている。いつも遊ぶ日の前の日には、風祭が確認の電話を入れてくるのが当たり前になっていたのだ。それを分かっていながら携帯の電源を切っていたなんて、遊ぶのを拒否しているのと同意ではないか。 (やばっ…。) さァっと血の気が引くのを感じる。学校が終わったら直接会いに行って謝れば良いのだが、そうするとどうして電源を切っていたのかも説明しなければならないし…。別に藤代が故意にメールをしていたとかではないのだから、何も疚しいことはないのだが。それでも何だか気が引ける。 「藤代っ!」 大声で名前を呼ばれ驚いて顔を上げると、鼻先に教師の顔があった。いつのまにこんなに近くに寄ってきたのだろう、と少しズレだ事を考えながら、とりあえず背もたれに背中を預けることで教師との間を空ける。 「ったく、さっきから呼び出しが掛かってるだろうが!さっさと行け!」 「…へ?」 視線だけでスピーカーを仰ぐと、確かに藤代誠二と呼ばれている。それもどうやら用件は電話らしく、首を傾げながら教室をあとにした。 (…電話?) 風祭かも、と思うが、その考えはすぐに忘れ去る。こんな白昼堂々とかけてくるような相手じゃない。そこが良いんだけど、と別の方向にそれて行きかけた思考を慌てて軌道修正する。それじゃあ誰だろう、と考えて、家で何かあったのかと早足に受付けへ向かった。 「もしもし、藤代で…。」 一応敬語で電話に出た誠二は、電話口から聞こえた意外な声に自分の耳を疑った。 「あんたは…。」 「シゲさん、一時間目どこ行ってたんですか?」 現在、授業を無事に終えて部活中。掃除が長引いて遅れてきた将は、更衣室に入る手前でベンチに腰掛けていた茂樹に話しかけた。 「…あ、ポチ。」 「はい?」 どこに行っていたのか答える気のなさそうな茂樹に苦笑をして更衣室のドアを開けると、今度は茂樹に話しかけられる。茂樹の方に顔を向けると真面目な顔で手招きをされて。首を傾げながら茂樹の傍による。 「…。」 「…。」 「…。」 「…し、シゲさん?」 「そろそろ来る頃や。」 何の話をしているのか頭がついていかない。将に手招きをしておいて、校門の方だけを見ている茂樹を不審に思い、もう一度名前を呼ぼうと口を開いた。その時。 「風祭!」 本来ならいるはずの無い声が聞こえて、反応が遅れた。 「…藤代くん!」 どうしてここに、と続けようと口を開いた所で後頭部に衝撃が走る。驚いて振り返るとベンチから立ち上がった茂樹と目があって。笑いながら背中を押された。 「タツボンが気ィ付かないうちに行った方がええで?」 「えっ…ハイ!」 茂樹に笑顔で返したあと、荷物を背負い直して藤代の元に走る。茂樹はそれを見送ってからゆっくりとベンチに座り直した。 二人で歩調を合わせて、学校から少し離れた道を歩く。どこか店に入ろうにも制服では気が引ける上に、HRが終わってすぐ駆けつけてきたため、サイフの中身がそれを許しそうにないのだ。かといって、二人して大きなスポーツバッグを抱えたまま町中を練り歩く訳にもいかない。だけど打開策は一向に思いつかなくて、学校をあとにした時から変わらない格好で何気ない会話を繰り返している。 将も呆れているだろうと気付かれないように顔を覗くと、将の口元には笑みが浮かんでいて。 「…藤代くん?」 会話の途中で突然返事を返さなくなった藤代を不審に思ったのか、首を傾げながら藤代の顔を見上げてくる。その仕草が子犬を彷彿させるようで可愛い、と見当違いな事を考えて動揺していたせいか、誠二自身も意図しない言葉を吐いてしまった。 「なんか楽しい?」 しまった、と思う。まるでこれでは誠二自身が楽しくないみたいではないか。誠二から目を逸らした将を何とか誤魔化そうと焦って言い訳を考えるが、口元に手を当てながら将が行った台詞はそんな考えを吹き飛ばしてしまうもので。 「…藤代くんと…好きな人と誕生日に一緒にいるんだもん…楽しくないわけないよ…。」 その台詞から鑑みるに将は先程の誠二の言葉をマイナスの意味には取らなかったらしい。誠二は将があまりにも可愛くて抱きしめたい衝動にかられた。…次の台詞を聞くまでは。 「ほんとは今日、会えないんじゃないかと思ってたんだ。でも、藤代くんちゃんと覚えててくれたし。」 それで余計嬉しくて、とゆう言葉は誠二の耳には入ってこなかった。このまま笑って当たり前だろ、と言う事は出来る。だけど実際、ここに来たのは後押しがあったからなのだ。一時間目の時に茂樹から電話がなければ、自分は今ここにはいなかっただろう。 「ごめん!」 瓦でも砕けそうな勢いで頭を下げる。誠二の突然の行動に驚いたのか、将の反応はワンテンポ遅かった。 「…え…なっ、何?どうしたの藤代くん。」 「実は俺、今日の朝になって風祭との約束思い出したんだ。それに今日風祭を迎えに行ったのだって、佐藤から電話があったからだし…。本当にごめん!」 頭を下げたまま一気に喋る。頭上から降る沈黙が怖こわくて、何となく頭が上げられない。 「シゲさんが電話したからぼくの誕生日を思い出したの?」 「…電話がある前から誕生日あってのは思い出してたけど」 「それじゃあ、藤代くんが謝ることなんてないよ。」 誠二の台詞を遮る将の言葉と同時に、頭を上げることを促すように首元に手が置かれる。すぐ側から響く声には怒りが一欠片も込められてはいなくて、更に申し訳ない気持ちになった。 「だって藤代くんがぼくの誕生日を思い出して会いに来てくれた事には変わりないんだし…。藤代くんと誕生日に会えたことだけで嬉しいもん。」 想像以上に近くで、少しだけ身を屈めた将と目が合う。顔を赤く染めて言葉を紡ぐ将があまりにも可愛くて、思わず抱き寄せてしまった。 「…ふふふ藤代くん?!」 往来でいきなり抱き寄せられた将は、当然ながら驚いて誠二を見上げる。すこしだけ抱き寄せる力を弱くすると、更に赤くなった顔に身を屈めて近づいて触れるだけのキスを落とす。 「誕生日、おめでとう。」 全ての機能が停止してしまったように動かない将の首元に顔を埋めて、苦笑しながらそうささやく。ふと力の抜けた将と目を合わせ、もう一度キスをしてから手を繋いで歩き始めた。 現在2時50分。5月10日はまだ長い。 |
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後半文章が砕けてるー!将が乙女してるー!関西弁については本場の方々のキビシイ感想お待ちしてます(恥は短くしたいので)。てゆうか題名と内容との関連はどこだ。 最後まで読んでくださって有り難う御座いました(脱兎)。 雛谷。 |