武蔵野森寮生のとある夜




武蔵野森学園寮では、決まって週末の夜に宴会が開かれる。宴会と言ってもサッカー部のレギュラー陣だけが集まって持ち有ったお菓子や缶ジュースなどを飲みながらバカ騒ぎをする程度のモノなのだけど、それでも名門とうたわれる武蔵野森学園に於いて、学業、部活共に高レベルの成績を納めていなければならない彼らにとっては欠かすことの出来ない習慣なのだ。
週末は唯でさえ気分が高揚するというのに、部の練習が休みともなれば、これ以上に盛り上がる理由はない。そんなときの宴会には、必要以上にハメを外すヤツと言うのが付き物で。
事の発端は、そんな奴らが持ち込んだアルコール飲料にあった。






「あー…っあ、よーやっと帰りやがった。」

後ろ手に扉を閉じた三上は、軽く欠伸をしながら、飲めないくせに無理に飲むからあーなるんだよ、と少量のアルコールで目を回した藤代に悪態をついた。笠井に引きずられつつ部屋に戻った後ろ姿から鑑みるに、せっかくの休みをあいつはベッドの上で過ごす事になるだろう。壁に掛けてある時計を仰ぐと、短針はすでに二時を大きく回っていて。明日は朝イチで図書館へ行く予定だったのに、と三上は渋い顔をした。

「渋沢、俺は…」

もう寝るぜ、と言いかけて、渋沢の異変に気付いた。ドアと向かい側の壁にもたれて胡座をかいたまま微動だにしない。そう言えば、宴会の途中からずっとそうだった気がする。

「おい?」

再度の呼び掛けにも応答しない渋沢に近づいて、まさか死んでるんじゃねえだろうなと不吉なことを考えながら俯いている顔を覗き込むように屈み込む。
途端、鼻先を掠めるアルコールの匂いに、三上は思わず顔をしかめた。

「…なるほど。」

死角になっていて見えなかった渋沢の左手には、見慣れたアルコール飲料の缶が握られていた。それを渋沢の手から抜き取って眺める。中身は全て飲み干してあるようで、それでもアルコールの度合いはそんなに高い筈はないのだけど、まあいわゆる下戸とゆうヤツなのだろう。
それにしても、と三上は思う。なんでも軽くこなしてしまうこのキャプテンが極端に酒に弱いとは、予想だにしなかった弱点で。相変わらず動かない渋沢を前にして、三上は不謹慎とは分かりながらも喉の奥で笑ってしまった。

「いつまで寝てんだよ。」

まだ語調に笑いを残しながら呼び掛けると、肩を揺するために伸ばした手は、肩に触れる直前、渋沢に掴まれてしまう。

「…なんだ、起きてんのか。」

突然手を掴まれたことで一端は言葉を切ったが、三上は助かったと思いながら心なしか語調を改めて話しかける。野郎の体を抱えてベッドに運んでやるなんて、一人の例外を覗けばまったくもって御免だと考えていたからだ。ところが、人の手を掴んだままの状態で、またしても渋沢は動かなくなってしまう。もちろん返事もない。
どうしたんだ、と問いかけようとした三上の言葉は、真っ直ぐに合わされた目線とヤケにハッキリと発音された渋沢の声に遮られた。

「好きだ、風祭。」



………………………は?



突拍子もなく、そしてここで吐かれるべきではないその台詞に、三上の思考が停止する。硬直した三上を余所に、渋沢は掴んでいた手をグイと引き寄せた。動揺のあまり体が上手く機能していない三上は、その渋沢の突然とも言える行動に体勢を崩して床へ膝をつく。手に持っていた空き缶が手を離れ、乾いた音が部屋に響いた。
背中に回された渋沢の手が更に三上を引き寄せて、その腕の中に三上を納めたと思ったら、壁しか見えていなかった三上の視界が急に回転する。

「なんっ」

ドン、と背中に衝撃が走るが、今はそれよりも自分の身に降りかかっている事の方がはるかに痛い。自分の上に、覆い被さるような体勢の渋沢。

「オイ渋沢やめろ待て離せ!」

三上の言葉を無視して、渋沢の指先がスルリと首筋を撫でる。運が良いのか悪いのか、今回の宴会は渋沢と三上の部屋で行われたために助けに入ってくる人間は誰もいない。三上は、全身から血の気が引くのを感じた。
風祭と三上の接点なんて髪が黒いことくらいだと思うのだが、アルコールで脳が麻痺するとそうは思わないらしく。

「…良いだろ?」

「良くねえ!!」

もはや一度や二度のツッコミではどうにもならない。
身を捩って体の上を滑る渋沢の手から逃げようとすると、制するように体が押し付けられて耳の辺りになま暖かいモノが押し当てられる。真っ青になって固まる三上が一体どう見えたのか、渋沢はふわりと笑って見せた。

「大丈夫。」

―――何が?!



「ちゃんと慣らすから、な?」



「…っぎゃああああああああああああ!」






次の日、二日酔いに苦しむ藤代同様、酒には強いはずの三上も二日酔いとゆう名目で一日中ベッドの上で苦しんでいたとかなんとか。



END




あははははははははははははは。あーっはっはっはっはっはっはっは。…はは。…すみません…ホントごめんなさい。ギャグが書きたかっただけなんです…!(極寒)