王様の気紛れ。







「…っ、うわあああああああ!」

秋雨、とは分類できないような激しい雨の降る休日。まだ夢の中にいる人の方が多いであろう午前十時、その声はマンション中に響き渡った。






窓を叩く雨音でふと目が覚めた。仰向けになったまま壁に掛けてある時計を覗くと、その短針はそろそろ十に到達しようとしているところで。

「…十時…。」

いつもなら目を開けた途端に吹き飛ぶ眠気がまだ抜けきらないことを不思議に思いつつ、目に掛かる前髪を払いのける。一度窓へと目を向け、もう一度時計を仰いで、再び視線を窓に戻す。

「…、洗濯物っ!」

窓に叩き付ける雨をしばらく眺めていた将は、そう叫びながら勢い良く起き上がった。毛布をはね除けてソファから飛び退くと、ベランダに繋がるガラス戸を取り外す勢いで開け放つ。
その瞬間、眠気は完全に覚めたと思ったのだけど。
激しく叩き付ける雨を遮っている物を取り去ればどうなるのか、そんな単純な結果が思いつかなかった辺り、やはりまだ頭は働いていなかったのだろう。
次の瞬間、将の体に降りかかる膨大な量の水滴。

「……。」

雨を体の前半分で受け止めた将は、開けたときとは裏腹な静かさでガラス戸を閉めた。ガラス越しに雨を睨むと、苦笑とも溜息とも取れる息をもらす。髪を伝う水滴を指ですくって、今度は確かな溜息をついた後バスルームへ向かった。






バスタオルを持って洗面所のドアをくぐると、鏡の前にバスタオルがおいてあるのが目に入る。

(また功兄が忘れてったのかな…。)

軽く首を傾げながらそう考えて、それなら良くあることだと気にも留めず、あとで片づけておこう、とその横に自分のバスタオルを置いた。

(…雨、すごいなー…。)

洗面所の中にまで雨音は聞こえていて。Tシャツを脱ぎながら、こんなに雨が降っていたのでは明日もグラウンドは使えないだろう落胆する。こんな事なら昨日の練習をもっとやってくるべきだったなと昨日の選抜練習を反芻していると、ふと何かが引っかかった。何かを忘れているような、そんな感覚。

(…何だろ。)

しばらく考えていたが、大事なことならばその内思い出すだろうと諦める。最後の一枚を脱いで洗濯機の中に投げ込むと、少しだけ冷たくなった空気に身を震わせながらバスルームのドアを開ける。

(…え?)

途端に強くなった雨音と頬を滑った暖かい空気に驚いて顔を上げる。すると、中でシャワーを浴びていた英士と目があった。

「……。」

「……。」

目を合わせたままの二人の間に沈黙が降りる。

「…シャワー、借りてるよ。」

将よりも先に我に返った英士がそう言った。そして、冒頭の叫びがここへ続く。






「ホラー映画?」

「…うん。」

それは、選抜練習での事。休憩中、階段に腰をかけて会話をしていたときに将から切り出して来たことだった。

「別に平気だけど?」

「じゃあ、今日ウチに来てくれないかな。」

何故ホラー映画が平気だと将の家へ行くのか、その繋がりがイマイチ理解できずに首を傾げると、将が慌てて付け足した。

「前から見たかった映画を功兄と見ようってレンタルしたんだけど…。功兄が仕事で今週いっぱい帰って来れないんだ。でも、レンタルの期限が今週までだから、…一人で見て良いって言われたんだけど…。」

最後の方は声が小さくて良く聞き取れなかったのだけど。聞こえた部分から推測するに、そのホラー映画を一緒に見てくれないかと言っているのだろう。将が自分から誘って来てくれたことも嬉しいのだけど、その理由があまりにも将らしくて、耐えきれずに吹き出してしまった。

「…か、郭くん酷いよ…。」

自分がホラー映画を一人で見れないことを馬鹿にされたと思ったのか、将はタオルで顔を隠しながら情けない声を出す。その声を聞いた英士は、込み上げてくる笑いを喉の奥に押し込めた。

「ごめん。じゃあ俺どうすれば」

言いかけたところで集合が掛かる。それじゃあ詳しいことは後で、と声を掛け合って集合場所まで走った。






(…思い出した…。)

悲鳴と共に勢い良くドアを閉めた将は、ドアノブからゆっくりと手を離した。そしてその位置にたったまま、意味もなく足下をを凝視して昨日の事を思い出す。

(あれから家に来てもらって、一緒にビデオを見て…。)

お礼に夕飯を食べて貰ったり、カードで遊んだりしていたら時間が遅くなってしまって。丁度良く今日は休日だったので、こんな遅くに帰るよりは、と止まって貰ったのだ。

(…なんでこんなこと忘れてたんだろ…。)

頬を軽く叩いて顔を上げる。

「風祭!」

…と、三センチほど先で英士と目があった。

「だっ、か、郭くん!なななに?!」

また悲鳴を上げそうになった将は、その悲鳴をなんとか飲み込んだ。そして、数歩だけ後ろに下がろうとする。だけど、ドアから首だけを覗かせていた英士が、その将を制する。



「一緒に入らない?」



一瞬、聞き間違いかとも思った。からかわれているのかとも。だけど、英士の顔は笑ってはいても冗談を言っている顔ではなかったから。

「………………え?」

「腕だってこんなに冷えてるし。寒いでしょ?」

自分の聞き間違いであって欲しい、と祈りながら何とか絞り出した言葉にも、当然の顔でそう返されてしまって。

「え、うん、…寒い、けど。」

将はどう逃げたら良いのか分からなくて、思わず頷いてしまう。

「じゃあ一緒に入ろうよ。」

「そっ、それは…。」

「いや?」

思わず言葉に詰まる。いやとゆうわけではないのだけど、…やはり、恥ずかしい。選抜合宿のとき、一緒の風呂にはいったとは言っても大きさが違う。それに完璧に二人なのだ。

「いやじゃないけど、でも」

「なら、良いでしょ?」

断ろう、とは思う。思うのだけど。人から頼まれた事は断れないとゆう性格だとゆうのに、好きな人から頼まれたのでは尚更断れない。それに、英士は自分が本当に嫌がることは頼まないとゆう事が分かっているせいもあって。

「…うん。」

また、英士の頼みは消化されていくのだった。



END




…本当にすみません。ホントごめんなさい…。王様的行動なんて微塵もしていない小説に…。なんでリクエスト小説で一緒に風呂…っ!…本当にすみませんでした…。

最後まで読んでくださって有り難う御座いました。
管理人、雛谷色葉。