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初めての喧嘩をした。よりによって、初めて祝う誕生日に。 月に一回の選抜の練習日。普段、学校が違うために将と会えず涙を呑んでいる(一部の)メンバー達にとっては、オアシスと言っても過言ではない。それが5月10日に当たったのはまさに奇跡、と一体何人のメンバーが思わずにいられただろうか。 だから今日は、英士に将を独り占めさせてなるものか、と妙なチームワークが芽生えていたりもしたのだが。朝、お決まりのように並んで練習場所の校門をくぐってきた二人の雰囲気に、誰もが目を疑った。 例えるならば、紫。 二人の向こう側に、この世の終わりが見えるような雰囲気を背負って来たのだ。二人が来た途端に引き剥がそうと思っていた(一部の)メンバー達は、初っ端から計画を崩されてしまい、ただ何をするでもなくその二人の方を見て固まっていた。 事は一週間前、将と英士が電話をしていたときにしたひとつの約束から始まった。 『あのさ、今月の10日って予定ある?』 「10日…?ううん、予定ないよ。」 電話の前に貼ってあるカレンダーを仰ぎ見て、予定がないことを確かめる。 『じゃあ10日、どこか行かない?』 「うん!」 詳しいことはまた今度話そう、と言ってその日は電話を切った。そして将は忘れないようカレンダーに印を付けようとして、自分が見ていたカレンダーがまだ4月っだた事に気付く。恐る恐る4月のカレンダーを切り取ると、5月10日の所には功の字で『将の誕生日!予定を開けておくこと!』と書いてあった。 そこで初めて将は、10日が自分の誕生日であることと功と約束をしていたことを思い出した。 そしてその一週間後、5月10日の朝。つまり今朝だ。 改札口で英士と待ち合わせをしていた将は、ぼんやりと人混みを眺めていた。結局、気付いたあとも連絡が付かなくて英士には何も言わないまま当日になってしまった。 (…どうしよう…。) 目を瞑って溜息をつく。いくら悩んでも仕方のない事なのだけど。功に予定を変えて貰うことも考えたが、功の方が先約な上にあの時にはもう有給休暇をとってしまっていた。 そうなるともう選択肢はひとつしかないだろう。 (…郭くんに謝ろう。) 決心を固めるために一度だけ深呼吸した時に改札口から出てくる英士を見付けた。 「ごめん遅れた。」 「ううん、ぼくも今来た所だから。」 軽く挨拶を交わしてから練習場所までの道を歩いて行く。 「そう言えば今日のことだけど」 「あの…郭くん、ごめん!」 予想しなかったタイミングで謝罪の言葉を述べられて、英士は怪訝な顔付きで立ち止まった将を見つめる。将はその視線から逃げるように俯いた。 「今日、やっぱりダメになっちゃって…。」 「…何で?」 「功兄とパーティーするから…。」 「約束したのに?」 「…ごめん。」 英士と目を合わせないまま質問に答えていく。表情が見えなくても声の調子で怒っていることが分かって。俯いたまま顔を上げられなかった。 「…そう。」 しばらくの沈黙のあと、英士が言ったのはその一言だけだった。溜息混じりにそれだけ言うと、将から目線を外して歩き出す。将はゆっくりと顔を上げて、英士の数歩あとを歩いた。 そして、冒頭へと繋がる。 空気が重い。 世界の終わりのようなオーラを背負って来た二人は、校門をくぐると何の声も掛け合わずに離れた。そして将は水野の所に、英士は結人と一馬の所に一直線に向かっていき、現在は黙々と柔軟体操に没頭中である。 今まで英士と将は、柔軟体操はもちろん何をやっていようとも必ず二人でいたとゆうのにこの変化は何だとゆうのだろう。その時の楽しそうな声や雰囲気を当たり前としているから、この二人の沈黙は辛い。 「風祭。…風祭!オイ!」 「ええあっ、何?!」 竜也としては将と一緒に体操をできてとても嬉しいのだが。呼び掛けても上の空、笑い方がぎこちない将を見ているのはその嬉しさを相殺させてしまうもので。 体操が終わったとゆうのにいつまでも立ち上がらない将に呼び掛けても、耳元で大声を上げないと気付かなかった。 「何じゃないだろ?いつまで座ってる気だよ。」 「あ、ゴメン。」 少し照れたような笑顔を見せた将に手を差し伸べる。ありがとう、と手を取って将が立ち上がった時に、玲からの集合がかかった。集合場所に走っていく間、振り向き様に将に話しかける。 「…郭と喧嘩でもしたのか?」 「うん…。ぼくが悪かったんだ。」 でも大丈夫だよ、と付け加えた将の顔は、明らかに大丈夫だとゆう顔をしていなくて。水野は気付かれないように溜息をつくと前に向き直った。 「どーすんだよ?」 「…何が?」 休憩中、吸水ボトルをあおいでいる翼に柾輝が小声で話しかける。同じように小声で返事を返してきた翼に、柾輝は本人に気付かれないように将を指さした。 「理由、聞いたんだろ?」 「ああ…。」 吸水ボトルから口を離すとタオルで口元を拭う。そしてタオル越しに溜息をついた。 「…損な役割だよな。」 珍しく本音で怪訝な顔をした翼に柾輝も同意する。将に想い寄せている選抜メンバー達も同じ事を思っているはずだ。好きな人間と自分以外の人間の仲を取り持つなんて苦痛以外のなんでもない。だけどその苦痛よりも将が笑っていないことの方が苦痛だ、と思える辺りもう重症である。 翼と苦笑しあって、軽く息を吐くと立ち上がった。 選抜内での練習試合のあと、軽くシャワーを浴びて現在は更衣室にて着替え中。将よりも早く着替え終わった竜也はバックの中を確かめると、何の声も掛けずに帰ろうとする。普段から帰りは水野と一緒なためこの行動には驚いた。 「みっ水野くん!一緒に帰ろう?」 「悪い。今日は用事あるからさ。」 じゃあ急ぐから、と言うと更衣室からいち早く出ていってしまう。そのやりとりを見ていた誠二が後ろから将に話しかける。 「風祭!じゃあ俺らと帰ら…っ」 ガン、と恐ろしい音をたてて、誠二がロッカーにめり込む。次に最初の音よりはいくらか軽い音で水が満杯にはいった吸水ボトルが床に落ちる。 「ああごめん。手が滑って。」 ゴロゴロといかにも重そうな音をたてて床を転がる吸水ボトルを、おなざりに謝りながら翼が拾い上げる。それをカバンの中にしまうと、更衣室の外に出て行った。 「…ふっ、藤代くん大丈夫?!」 「大丈夫。じゃあな風祭。」 床に倒れたまま動かない誠二を抱き起こそうとすると、それを遮るように渋沢が誠二を担いでドアの外へと消えていく。 そのさまを呆然と見つめていた将は、向かい側でロッカーを使っていた鉄平と目があった。 「…小岩くん。一緒に帰らない?」 「ああ、別に…っ!」 「ごめんねカザくん。僕たちちょっと急ぐから。」 いきなり鉄平の背後から現れた多岐が言葉を遮って、帰りの支度が整っていた鉄平を有無を言わさず引きずっていく。 「じゃあ英士、俺らも急ぐから。頑張れよ?」 「じゃあなー。」 「…一馬、結人?!」 軽い調子で別れの言葉を言うとこちらの言い分は聞かずに更衣室を出ていってしまった。バタン、と必要以上に大きな音をたててドアが閉まる。 現在、更衣室内にいるのは英士と将の二人だけで。英士が将の方を向くと、将も英士の方を見ていたのか目があった。だけど目があった瞬間、将は体を強張らせて目を逸らしてしまう。そしてバタバタと帰りの支度をすると、足早に更衣室を出ていこうとする。 「あっ、風祭!」 顔を見ようともせずに横を通り抜け、更衣室のドアに手を掛けた将に呼び掛ける。声もなくゆっくりと振り返った顔には明らかに恐怖の二文字が刻み込まれていて。苦笑を禁じ得ない。 「ボタン…掛け違えてる。」 「え…あっ!」 よほど急いで着替えたのか、ワイシャツのボタンがひとつずつずれていて。ありがとう、と言いながら真っ赤になってボタンを直している最中も、将は英士と目を合わせようとしなかった。 そんな将の様子に溜息をつくと、静かに近づいて将の額に掛かる前髪を手で持ち上げる。そして、赤くなっているそこに軽くキスを落とした。 「朝はごめん。」 顔をこれ以上ないくらい赤くして、将が勢い良く後ずさる。 「一人で怒って。結人と一馬から聞いたけど、約束したのは俺のがあとだったんだって?」 「…そんな、郭くんが謝ることないよ!今日まで黙ってたぼくが悪いん」 将の台詞を遮って、今度は将の唇にキスをする。英士を直視したまま動かなくなってしまった将を尻目に、英士は自分のバックを取って更衣室のドアを開けた。 「一緒に帰ろう。」 無言で頷く将の仕草が何だか可愛くて、思わず吹き出してしまう。それで将の機嫌が少しだけ傾いてしまったのだが、今朝のことが頭の中から消えたようなので良しとしよう。 人の多いホームに電車が滑り込んでくる。英士と将は行き先が違うためここで分かれるのだ。 それじゃあと手を振って電車に乗り込もうとした将の腕を英士が引っ張った。よろけてホームと電車の間に落ちそうになった将を支えながら、四角い包みを手渡す。 「来年は一緒にいよう。」 耳元で囁かれた言葉に大きく頷くと電車の中に乗り込んだ。 囁かれた言葉は、二人だけの約束。 |
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書き始めたら収集がつかなくなり、考えていたネタとは全然違うモノに…。『英士と将』と書く度に『英士と郭』と書いてしまい大変でした(アホか)。同一人物だよそれ! 最後まで読んでくださって有り難う御座いました。 雛谷。 |