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待ち合わせ場所に着いた将は、先に着いていた翼の手に注目する。翼の指にはまっていたのは、シンプルな細工の入った銀色の指輪。






wedding ring






翼は元々装飾品をあまり付けない。今までも、ネックレスくらいなら付けているのを見たことが有るが、それでも申し訳程度のモノで。その翼が指輪、しかも存在感の有る物を付けている。
そこまでだったら、将もこんなに気にならなかったかもしれない。将が気にしているのは、それを付けている指。
左手の、薬指。

「将?」

「え、あっ、ハイっ。」

挨拶をしたあと、何を話しかけても呆けている将を覗き込む。それで我に返ったらしく、いつもの様に顔を赤くして、返事をしながら一歩後ろに下がる。

「人の顔見て何を呆けてるんだよ?」

「なっ、な何でもない、デス。」

明らかに動揺しながら、将が思いっきり首を振る。ここまでされると、それ以上追求してはいけない気がして。顔を真っ赤にしたまま、まだ首を振り続けている将に、苦笑しながらも追求は諦めることにした。

「ホラ、行くよ。」

翼が、将の手を掴んで歩き出す。いつもなら、すぐに翼の手を軽く握り返すのだけど。指輪のことが気になって、何となくそれが出来なかった。






「こちそうさま。」

「・・・。」

将からは何の反応も返ってこない。今日に入ってから、もう何度目なのか解らないこの反応に、翼は溜息をついた。
散々遊んだ帰り、夕食を食べていかないかと言う将の誘いに乗って、今は将の家にいる。遊んでいる間もずっと変だった将の態度は、夕飯に誘っておきながらもやっぱりおかしくて。自分が何かやったのかと不安になったりもしたが、考えてみても一向に理由なんか思い浮かばない。

「将っ!」

「ッハイ!」

わざと声を大きくして呼び掛ける。普通の声で呼び掛けたのでは、将からの反応は返ってこないから。

「ハイ、じゃないだろ。また呆けて。何かあったの?」

「何もっ。何もないですっ。」

真面目な顔をして問いかけても、将から返ってくるのは否定の言葉。これも今日何度聞いたか解らない台詞だ。

「本当に?」

テーブルに腕をついて身を乗り出す。

「ほ、本当ですっ。」

心なしか後ろに下がりながらも、きっぱりと否定を伝えてくる。しばらくそのままの体勢で将を見ていたが、溜息をつきながらソファに座り直した。

(絶対に嘘だよな。)

もう一度、今度は将に気が付かれないように軽く溜息をつく。嘘なのは、初めて問いかけた時から解っている。自分のこの恋人は、平気で嘘が付ける人間ではないため、それくらいなら誰にだって解るだろう。
問題は、その将がここまでして何を隠しているか、だ。

「えと、じゃあ、ぼく片づけて来ますね。」

明らかに不自然な態度で将が立ち上がる。そして、翼のどこかを見て一瞬顔が曇った。それを翼は見逃さなかった。
将が食器を持って置くに消えたことを確認してから、将の見た自分の左腕を確認する。

(・・・あ。)

銀色の指輪が目に入って、今まで忘れていた本当の用件を思い出した。鞄を漁って、綺麗にラッピングされてリボンの掛かった小包を取り出す。
リボンに印刷されている文字は『Happy White Day』。
それを見て微笑むと、翼は将が戻ってくるのを待った。






食器を流し台に置いて水を流す。勢い良く溜まっていく水を眺めながら、将は溜息をついた。

(・・・やっぱり気になる・・・)

翼が自分で気紛れに付けているだけなのだろう。何もこんなに気にする必要はどこにもないのだ。思わず溜息を付きそうになって、息を止める。

(もう、気にしない!)

水を止めるて決心したように顔を上げる。用意してあったカップをトレイにのせてから翼のいるリビングへ向かった。






リビングに足を踏み入れて翼の津方を見ると、固めた決心が揺らぐ気がして。トレイを持つ手に力がこもる。

「将、手ェ出して。」

トレイからカップをテーブルに移している途中に真面目な顔をしてそう言われて、とっさに右手を出す。翼は少し考えてから、そうじゃない、と将の額を小突いた。

「こっちの手だよ。」

翼が手を伸ばして将の左手を取る。そして、包みから何かを取り出すと、将の薬指にはめた。

「・・・これ・・・。」

「バレンタインデーのお返し。」

ゆっくり手を引き戻して指輪を眺める。

(これ、どこかで・・・)

そこまで考えて、翼の左手に視線を移す。自分の指輪にも、翼と同じ細工が施してあって。

「・・・有り難う御座います!」

勢い良く、テーブル越しに抱きついた。



end
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この物語を、ざるそばさまに捧げます。あんな企画に参加して頂いて、本当に有り難う御座いました。こんな小説で申し訳ないのですが、お礼の気持ちです。

管理人、雛谷色葉。