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午前0時。 物音を立てないよう気を付けて自宅のドアを開いた功は、その先に広がる光景にしばし動きを止めた。 「………。」 暗闇である。普段であれば玄関とその先の廊下に明かりが灯してあるのだが、それがどちらも落とされているらしい。 マンションの廊下の光を背負っているので、かろうじて片付けられた玄関だけは見ることが出来る。電灯が切れたのか、単に着け忘れたのか。理由は分からないが、功はとりあえず闇の中へと体を滑り込ませた。 音を立てずに後ろ手で扉を閉める。そうすると、電灯の光に慣れた目では、周りがさっぱり見えなくなってしまった。 しばらく目を閉じてから周りを見渡す。普段から薄暗い職場にいるため、目は暗闇に強くなっている。 いくらか効くようになった目がまず捕らえたのは、扉が開け放たれたままの弟の部屋だった。 (…いないのか?) ひょっとして、またあの河川敷でボールを蹴っているのだろうか。ありそうな自分の考えに、思わず功は顔をしかめる。 靴箱に手を置いて靴を脱ぐと、部屋にあがった。電灯のスイッチに手を掛けるが、弟が寝ていたときのことを考えてそのまま手を離す。 そろり、と弟の部屋をのぞき込むと、暗い部屋は静まりかえっていた。ベッドにも人のいる気配は感じられない。 机の横にあるはずのボールも見あたらなかった。 ひとつため息を付いて、扉を閉める。 そのとき、 「―――」 リビングで人の気配がした。 振り返ったリビングも闇に包まれていて、功は首を傾げる。 ドアから手を離すと、リビングへ足を向けた。 リビングへ足を踏み入れて、功はまずソファの上に弟の姿を見付けた。 初めは腰を掛けていた状態で寝ていたのが、そのまま横に倒れてしまったのだろう。足をソファの下に降ろし、上体をソファの上に横たえていた。 足下にはサッカーボールが転がっていて、その手には土に汚れた雑巾が握られている。河川敷から帰ってきた後、ボールを拭いている途中で眠ってしまったらしい。 (なんでまたこんな暗い中で…。) 何かあったのだろうか。 この寝方から見て、眠りにつく前から部屋は闇に包まれていたに違いない。昔から、暗い部屋にいるのは何か心に悩むことを抱えているときだった。 ゆっくりとソファに近づいて、眠る弟の顔をのぞき込む。目元に掛かる前髪を、起こさないよう慎重に払った。 そうして見えた表情に、思い悩む陰は見えなくて、功は安心したように息を吐く。 (じゃあなんでこんなところに―――、) そう呟いた功の心に答えるようなタイミングで、部屋の中に明かりが差し込んだ。 目を細めながら、右の窓に目を向ける。 「―――」 カーテンの開け放たれた窓の向こう。 手を伸ばせば届きそうに近い、月があった。 今までは雲に隠れていた月が、ようやっと顔を出したらしい。明かりがひとつも灯されていない部屋へ、月の光が滑るように入っていた。 中秋の名月。そんな言葉が浮かぶ。 そういえばもうそんな時期か、と口の中で呟いた功は、月の光にも気付かず眠っている弟へ視線を戻す。その中には、弟という言葉では足りない、甘い感情が含まれていた。 額へかかる髪に指を絡めると、そっと口づける。この弟は、この月を待っていたに違いないのだ。―――自分と見るために。 決して夜が得意ではない弟が、自分とこの月を見るために待っていた。そう思うと、どうしようもなく優しい気持ちになる。 その感情のままに口元を綻ばせた功は、あらわになった額へも唇を落とした。 |
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人の気配を感じ取るホストな兄貴、風祭功(笑)。大好きです! 『愛しい』とか『愛情』とゆう言葉を使うのがどうにも恥ずかしく、懸命に逃げてみました(苦笑)。 最後まで読んでくださってありがとうございました! 雛谷(20030912) あ、将が喋ってすらいない…(多いな、そうゆう小説)。ちょっと修正しました。あんまり変わってませんが(苦笑)。 雛谷(20030928、トップより移動) |