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そろそろ日も暮れようかという午後4時前。将が買い物を終えて帰ってくると、家の中では電話が鳴り響いていた。 抱えていた荷物を足下に降ろし、慌てて受話器を取る。 「Hallo!」 『もしもし、将?!』 ドイツ語で返ってくると思っていた将は、受話器の向こうから聞こえてきた音が日本語だと気付くまでに少し時間が掛かった。 しかも、雑音が混ざって、覚えのある声よりも掠れて低くなっているけれど、―――これは。 「…翼さん?!」 翼とは恋人と呼ばれる関係だった。けれど、将はここに来る前に、翼との関係を終わらせた。自分勝手な理由で別れを切り出した将に、けれど翼はそれを理解して受け止めてくれた。 だから当然、翼とは一度も連絡を取っていなかったし、電話番号も知らないはずだ。 「どうして…、」 『待って、とにかく飛び跳ねて!』 「ええっ?!」 挨拶も説明も抜きで翼から突然言われた言葉に、聞きたかった疑問が全て塗り替えられてしまう。 「飛び跳ねる?!」 『そう! …いくよ、3…2…、』 「えっ、ちょ…!」 『…1、ハイ!』 まったくわけが分からないが、とりあえず受話器を耳に当てたまま軽く飛び跳ねる。 受話器の向こう側の雑音が、わあ、と大きくなった。 『…飛び跳ねた?!』 「飛び跳ねましたけど…何なんですか?!」 電話を受けでから、まだ1分も経っていないと言うのに、すでに翼の言うこと全てが理解できない。 『あけましておめでとう、将!』 けれど、懐かしいとも言えるその挨拶で、とらされた行動の意味を理解する。 「…まだこっちは大晦日の夕方ですよ?」 8時間ほど先を行く、遙か東の国は新しい年を迎えたのかも知れないけれど。 驚かされた事に対する、少しの意趣返しを込めてそう言う。だが翼には効果がなかったどころか、それ以上の意趣返しを―――翼にその意図があったかどうかは別として―――将は受けることになる。 『―――今年、帰ってくるんだろ?』 何だって? 驚きのあまり声もない将を置いて、翼は更に続ける。 『なら、こっちの時間で年越した方が縁起がいいと思わない?』 自慢げに話す翼の声が聞こえてはいるものの、驚きのあまり停止してしまった思考がそれを言葉として認識してくれない。 「………、…どうして…?」 かろうじて将が捻り出せた言葉は、主語の足りないそんなものだった。それでも翼には意味が通じたらしい。 『玲に連絡とってるだろ?』 それから翼は、ずっと前から連絡先を知っていたこと、監督の話から偶然に将の帰国を知ったことを簡単に話した。 『本当は、連絡入れるつもりなかったんだけどね…。』 帰国することを知ったら、我慢が聞かなかった、と笑う翼に、将は、そうだったんですか、と相づちを打った。 それきり、気まずいような沈黙が落ちる。 『…じゃあ、待ってるよ。』 将が、何か言わなくては、と焦っている内に、翼はそう告げて電話を切ってしまう。受話器越しに聞こえていた騒音がなくなると、家の中はシンと静まりかえっていた。 将は、その静寂を壊さないよう、静かに受話器を戻した。 足下に降ろしていた荷物を抱え上げると、昨日飾ったばかりのカレンダーを捲り上げる。口元が緩むのを止められない。翼の最後の言葉を心の中で繰り返しながら、マーカーで書き込まれた帰国の日を指でなぞった。 |
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「もしもし?」 『飛び跳ねてね! 5…4…、』 「ええ、あ、うん?!」 『3…2…1!』 こんな感じで、親と初詣に来ていた静かな神社で管理人は一人飛び跳ねました。なぜ飛び跳ねるのかはよく分かりません(…)。 最後まで読んでくださってありがとうございました! 雛谷(20040101) |