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雨の中を将のマンションへと走る。腕時計を仰ぎながら、一馬は天気予報を信じたことを後悔していた。 勢い良くマンションの入り口をくぐり、一度止まってからエレベーターへ急ぐ。風を切って歩くと濡れた体が冷えて。エレベーターを待つ間も、風が横を通り抜けるたびに体に震えが走った。 エレベーターから降りた後、もう一度時計を仰ぐ。やっぱり待ち合わせの時間よりもいくらか遅れてしまっていて。恨めしそうに灰色の空に目を向けると、マンションの最奥に位置する将の家へと駆けていく。 ピンポーン。 いくらか申し訳ない気持ちでインターホンを押すと、やけに間延びした音が響く。その最後の音が鳴り終わるより前に、スピーカーから将の声。 『…はい?』 「風祭?俺だけど。」 『真田くん?ちょっと待って、今ドア開けるから。』 軽く返事を返すと、すぐに目の前の扉が開く。その途端、笑顔だった将の顔が一転した。 「…傘、ささないで来たの?!風邪引いちゃうよ?!」 「別にこれくらい…」 言いかけた言葉を遮って思いっきり腕を引っ張られる。予想外の行動で必要以上に体がよろめいた。何とか体勢を持ち直して将の顔を見ると、目があった途端。 「平気じゃないよ!今タオルと、お風呂沸かすから!」 こちらには選択権を与えない口調で将が怒鳴る。そのままリビングまで通されて、将が目の前を慌ただしく行き来するのを呆然と途眺めていた。 しばらくして大きめのバスタオルを手渡されたとき、一馬は自分の手に持っている包みの変わり様に気が付く。雨の中を傘もささないで駆けてきたために、包装紙の鮮やかな青色は見る影もなく濁っていて。恐らく中身にも絞れるほど浸水しているだろう。一馬は深く溜息をついた。 頭から勢い良くシャワーを浴びる。体の上をシャワーのお湯が流れていくと、自分の体がどれだけ冷えていたかが分かった。 (プレゼントどうするかな…) 一馬は、忘れかけていた問題を思い出して髪を掻き上げる。今日は5月10日。将の誕生日だ。将は優しいから、プレゼントなんて気にしないだろうとは思う。それは一馬も良く分かっているのだが、一馬が悩んでいるのはそれだけではなくて。 バスタオルで頭を拭きながらリビングに入ると、将の姿はそこにはなかった。少し長めの功の服を軽く引きずりながらベランダを覗くと、洗濯機をいじっていた将と目があった。 「真田くん! 早かったね。お湯平気だった?」 「ああ。何やってたんだ?」 「洋服、洗ってたんだ。いま乾燥機かけたから帰る頃には乾くと思うよ。」 くるぶしに手を当ててベランダ用の靴を脱ぐ。一馬にソファへ腰掛けるように進めると、将はダイニングへ向かっていった。 将と一馬が付き合って3ヶ月になる。一馬の告白に将が頷いてからの3ヶ月間、何か進展があったかと言えば。 何もない。 行動に出せるかどうかは別として、一馬だって男なのだから好きな人に触れたいとは思うのだ。それを踏み止まらせるのは、やはり将の男なのだと言うことだった。自分が将に触れたいと思っても、将はそんなこと気持ち悪いと思うかも知れない。自分を好きだと言ってくれた将を疑うわけではないが、一馬はそんなに積極的な方ではないし、将なんて言うまでもない。 一緒にいるだけで嬉しいし、今の状態が息苦しいかと言えばそんな事はまったくないのだが。 そんな状態のまま、今に至る。 「おめでとう。」 恋人の誕生日を本人の家で祝うというのも不毛な気がするのだけど。一馬の家はどうしても都合が付かなかったし、この雨では外に出掛けるわけにも行かないし。せめてものお詫びにと買ってきたプレゼントは雨に濡れていて、不毛な事この上ない。 言葉と一緒にお世辞にも綺麗とは言えないプレゼントを将に差し出すと、本当に嬉しそうに将が受け取った。 「ありがとう!」 将が自分に向けた笑顔で、胸の奥に重い物がのし掛かる。それに気が付かない振りをして、将に気が付かれないように視線を逸らす。が、それが悪かった。 「熱…っ!」 反射的に手を引いてから、自分が目の前に置いてあったコーヒーを零したことを理解する。 「どうしたの?!」 ワンテンポ遅れて気が付いた将が、大袈裟なくらいに驚く。一馬が事情を説明するよりも先に、倒れたコーヒーカップと手を押さえている一馬を見て急いでダイニングから袋に入った氷とタオルを持ってくる。零れたコーヒーの中にタオルを放り込むと、氷の入った袋を一馬の手に押し当てた。 「そんな事しなくても」 「平気じゃないよ!」 一馬の言葉を遮って将が一馬を睨む。怪我をした本人としては今日は良く濡れるな、くらいにしか思っていないのだけど。反論を許さない態度で怒鳴られたのでは、引き下がる他ない。 (…細い、な…。) 将が隣に座って一馬の手を見ながら氷を当てているため、背の高さも関係しているとは思うが、自然に一馬が将を見下ろすかたちになっている。襟首から覗く首から鎖骨にかけての線は、驚くほど白く細くて。目が離せなくなる。 カラ。 氷のずれる音が耳に入ったことで、自分たちの回りがどれだけ静かなのかにやっと気付いた。何となく気まずくて目を上げると、一馬と真っ直ぐに目があう。予想外に距離が狭くて顔を上げたことを後悔した。だけど、目があったまま動けなくて。 氷がもう一度鳴ると、一馬が片手だけ将の首にまわす。そのままどちらともなく、お互いしか目に映らない距離まで近づいていって。ふと、ソファに映る影がひとつに重なる。 …直前。 ピンポーン。 狙ったように部屋中にインターホンが鳴り響いた。 それを聞いた二人は、同時に左右の肘掛けまて飛び退く。そんな音なんて無視してしまえば良いのだけど、それが出来ないからこの二人なわけで。 「・・・。」 「・・・。」 先程とはまったく違った雰囲気で、お互いの顔を直視したまま固まる。しばらく経ってから痺れを切らしたようにもう一度インターホンがなると、それで我に返った二人は突然動き出した。将は玄関へ客人を出迎えに、一馬は自分が零したコーヒーを片づけに。 声から察すると、訪ねて来たのは英士と結人らしい。優しい自分の恋人は、遊びに来た友人を断るなんて出来ないだろうから。二人を交えて、パーティーは仕切り直しになるだろう。 二人の恋が進展するまでの道のりは、まだまだ長そうだ。 |
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ふ、不発っ。何ですかこれは?!偽物本物以前の問題です。ってか会話少ねぇ!毎度のことですが、これはちょっと酷すぎ(汗)。精進したいです…。心から。 雛谷色葉。 |