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聞き役に徹するのもキャプテンの仕事のひとつ。
それが習慣付いているせいか、誰といても自然に聞き役に徹していることが多い。それでも特に不自由はなかった。






vox






待ち合わせの場所に少し遅れてきた将の顔には、一目で風邪と分かるような大きなマスクが付いていて。

「…大丈夫か?」

「…御免なさい、大丈夫、なんですけど…」

いつもの将の声よりもずっと掠れた声。苦しそうに言葉を途中で切ると、身を屈めて咳をする。普通、人はこれを大丈夫だとは言わない。

「今日は中止にした方が良いかもしれないな…」

まだ咳をしている将の背中をさすりながらそう言うと、将が驚いたように勢い良く顔を上げる。

「そんな…っ大丈夫ですから…!」

やっぱり掠れた声でそう言うと、急に大声を出したせいかさっきより激しく咳き込む。

「でも…熱が出たら大変だろう?」

咳き込みながら何かを言いたそうな顔で頭を振る。多分、大丈夫だと言いたいのだろう。将の懸命さに苦笑しながらも、休めていた手を再開させて将の背中を軽くさする。

「何か今日じゃないといけない事があるのなら別だが…」

やっと咳の止まった将は克郎に礼を言ったあと、咳き込まないように慎重に言葉を紡ぐ。

「…そ、ゆのはないんですけど…だって、せっかく会えたのに…」

聞いている方が痛くなるような掠れた声。マスクで顔の半分が隠れているのではっきりとは解らないが、顔が赤くなっているだろう事か雰囲気から解る。
確かに最近は忙しくて会っていなかった。それに、好きな人にこんな事を言われて、それを無下にできる筈がない。

「え…っ。」

身を屈めて顔を近付けると、将が驚いて後ずさりをしようとする。それを将の後頭部に手を当てることで制すると、もう片方の手で前髪を上げてから将の額に自分の額を当てた。

「…熱は、ないな…。」

顔を離すと、また咳き込んだ将の背中をさする。

(人混みに行くのは避けた方が得策だな…)

「風祭の家は誰かいるのか?」

「…あ、はい。今日は功兄がお休みなので…」

将の言葉に頷いた後、少し何かを考えてから急に将の手をひいて歩き出す。

「え…っ、どこ行くんですか?」

「風祭も良く知ってる所だよ。」

はぐらかした言い方に、将は行き先を理解できないまま克郎の後に付いて行った。






電車に乗って座りながら向かいの窓を見ていると、風景に見覚えが有ることに気付く。

(ここは…。)






克郎が連れてきてくれたのは武蔵野森の寮。克郎と亮の部屋を覗くと、中には誰もいなくて。不思議そうに克郎を仰ぎ見ると、克郎は将に一枚の紙を差し出す。それには亮の文字で図書館に行って来るとだけ書いてあった。

「予約していた本が入ったとかで…朝からいなかったな。」

納得して頷くと、克郎は適当に座るよう将に促してから飲み物を取りに食堂に向かっていった。
克郎が出ていった後、将は近くにあったクッションを抱えてカーペットの上に座り込んだ。






話の切れ目に、克郎の持って来てくれた飲み物に口を付ける。そして何気なく克郎の顔を見ると、克郎も将の事を見ていたらしく目があった。それだけで何となく恥ずかしくて、将は自分の頭に血が上っていくのを感じた。
顔の赤くなっていく将を見て、克郎は笑いながら将の額に手を当てる。手に当たる将の体温が、顔が赤くなっていることを差し引いても明らかに高くなっていて。

(マズイな…)

電車に乗ったのが悪かったかもしれない、と今更ながら後悔した。一応席に座らせてはいたが、人混みにあって熱が上がってきてしまったのだろう。

「風祭、少し横になった方が良い。」

渋る将を何とか宥めて自分のベッドに潜らせた。






「何か…あったのか?」

「…え?」

額にのせるタオルを絞りながら克郎にそう聞かれて、主語の抜けた言葉に将は解らない顔をする。

「いや、ずっと楽しそうだから。」

克郎の言葉と共に丁度良く水気の切ってあるタオルが額にのせられる。その冷たさで、自分の熱の高さがやっと解った。

「…そう、見えますか?」

「別に違うのなら構わないが…。」

将の反応に渋沢が否定の言葉を口にする。将はそれを首を振る事で否定した。そして、恥ずかしそうに布団を目のすぐ下まで引き上げる。

「…嬉しかったんです。渋沢先輩が自分の事を話してくれる事ってあんまりなかったから…。」

布団の下からくぐもって聞こえた声に、克郎が少し驚いた様な顔をする。
確かに、自分は聞き役に徹している事が多い。だけど、今日は将が無理をして話さなくても良いように、なるべく自分が話すようにしていた。将は、それが嬉しかったと言っているのだ。
克郎が乗せたばかりのタオルを将の額からどけて、将の前髪をはらう。その行動に熱を測るのだと思って目を瞑ると、額に手とは違う柔らかいものが当たった。

「…先輩…っ!」

言おうとした言葉を半分も言えないうちに、急に息を吸い込んだ事で止まっていた咳が再開する。

「…大丈夫か?」

予想外の展開に困ったような顔で将の顔を覗き込む。

「先輩が急にあんな事…するから…っ。」

まだ少し咳き込みながら顔を真っ赤にして苦情を訴えてくる。手に持っていたタオルをもう一度水に浸して将の額に乗せた。

「…キスしたいな。」

「…したじゃないですか…。」

将は防御とでも言わんばかりに布団を引き上げる。

「ちゃんとここに。」

布団の上から将の唇の辺りを指で差す。

「…風邪、移りますよ…。」

ゆっくりと布団を下げた将の唇に軽くキスを落とした。






扉の外では、図書館から帰ってきた三上がドアノブに手を掛けたまま固まっていた事を二人は知らない。



end.
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てゆーか最後で落とすなよ…。三上さんゴメン(笑)。渋サンはもっと格好良い方に100円。そして自分の文才のなさに乾杯(もしくは完敗)。

最後まで読んでくださって有り難う御座いました。
へっぽこ雛谷。