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小学校の卒業文集。 その見開きにあるお約束の質問、将来の夢。 椎名翼はその欄に、『 ホモにならない 』と本気で書いた。 幼稚園、小学校、そして現在。 特に何の不自由もなく過ごしてきた生活の中で、ただ一点だけ気に入らない物がある。 それは男からの告白、だった。 もちろん、女からの告白も掃いて捨てるほどある。 だが、自他共に認めるあの顔で、男が黙っている筈もなく。 街を歩けば数えるのも鬱陶しい。 だから自分だけはなるまい、と心に決めていたのだけれど。 その決意はあの日、無惨にも砕け散った。 桜上水。 玲に伝えられた次の試合の相手。 無名だが今年は強い、という立派な肩書きを背負った2年中心のチーム。 詳しい説明には特に興味も湧かなくて、玲の言葉も右耳から左耳へ抜けていく。 「強かろうが弱かろうが関係ないね。」 強ければ全力で潰すまでだし、弱ければそれなりに潰す。 思い上がったチームならそれまでだし、素質が有ればまた会うだろう。 目指すは世界。 その前にすれ違うだけの関係。 だた、それだけの筈だった。 「天城!」 回りの雑音を寄せ付けないように響く声。 それを発していたのは自分と差して変わらない背丈の。 「風祭。」 色の抜けた髪を無造作に垂らしている奴が名前を呼ぶ。 桜上水の、風祭。 次の試合の相手にあいつがいる。 何故だかは分からないまでも、それだけで試合が楽しみに思えた。 試合をして、限りない可能性と意志の強さに惹かれた。 あいつとサッカーがしたい。 もっとあいつを知りたい。 もっと話をしたい。 「お前、名前は?」 「風祭、将。」 偶然歩いていた街で、あいつの姿を見付ける。 「しょう・・・」 声を掛けようとしたとき、将の横に居る人影に気付いた。 将と2人で笑いながら人混みに消えていく。 別に、普通の光景。 それなのに、それだけで苛ついた。 将の隣にいるのが、自分ではないことに。 不調だ、と自分で思う。 あの街で見かけた事が頭から離れない。 思い出すだけで苛つく。 サッカーで気を紛らわそうにもどうも上手くいかない。 それで更に苛ついて、もう立派な悪循環。 「馬鹿くさ・・・」 休憩に玄関の低い階段へ腰を下ろす。 「不調やなぁ、翼?」 同じように休憩を取っていた直樹に声を掛けられる。 自分で分かっていることを反芻される程むかつく事は無い。 だが今は機嫌が傾きすぎて、のしてやる気にもならなかった。 「・・・っせぇな。」 「何や、恋煩いか?」 誰が。 笑って言い返そうとして言葉に詰まった。 恋煩い、だって? 恋…強く惹かれ、いつも一緒にいたいと思う気持ち。 いつか辞書で引いて、大笑いした記憶が巡る。 これ以上今の自分に当てはまる言葉があるのか。 「・・・翼、マジで?」 「な訳あるかよ。」 振り返ったまま返事をしない姿に、直樹が引きつった顔をする。 それには馬鹿にした口調と蹴りで誤魔化した。 でも、考え始めたことはなかなか止まらない。 つまり苛ついたのは独占欲。 イコール、将に惚れた。 ・・・男に、惚れた。 それからの思考の転換は早かった。 多少の抵抗はあったものの、自覚した以上、小学校の頃の決意がどうのなんて言ってられない。 巡る記憶を頭の奥にしまい込んで、将を振り返らせることに全力を絞った。 それでもこいつを振り向かせるのには、とにかく苦労した。 こっちが全力でぶつかっても返ってくる反応は3割以下。 あまりの鈍さにわざとやってるのかと本気で考えたが、周りも同じように四苦八苦しているのを見て、その考えは吐き捨てた。 あの後も地獄のアプローチを続け、現在に至る。 「・・・何、笑ってるんですか?」 念願の恋人と遊びに行った帰り、丁度良く帰省ラッシュにあたったおかげで電車の中は人がごった返している。 質問に答える前に電車が駅について、車内に人が更に増えた。 遠慮なく迫ってくる背中から逃げるため、将を角に寄せて自分がそれを抱え込むように向かい合う。 それから会話を再会した。 「別に笑ってないだろ?」 「うそだ、笑ってますよ。」 軽く見上げてくる顔が微かに赤いのは、人混み独特な空気だけのせいではないだろう。 「笑ってない。」 「笑ってます。」 小声で続く押し問答は多分しばらく終わらない。 「これで最後。笑ってない。」 「そんなのずるい・・・」 ただでさえ近かった距離が更に縮まって、言いかけた言葉ごと翼に遮られる。 触れたかどうかも疑わしいほどすぐ唇は離れた。 それだけなのに将の顔は耳まで赤くなる。 「翼さんっ!」 思わず出た声は予想外に大きくて、車内の人が一斉に振り向いた。 それを見た将は更に顔を赤くする。 そして、小声で付け足した。 「・・・何、するんですか・・・っ」 「将が諦めなかったからだろ?」 「だからって・・・」 こんな人混みで、と更に小声で呟く。 「将は人の人生設計を壊してくれたからね。そのお礼だよ」 「・・・人生設計?」 電車が駅に停車して、開いたドアから冷たい風が吹き抜ける。 「ほら、降りるよ。」 不思議そうな顔をしている将を引っ張って電車を降りた。 卒業の記念、卒業文集。 その中にあるお決まりの質問、『将来の夢』。 それをまた目の前にして。 今ならホモになるのも良いんじゃないかと思う。 ・・・まあ、将以外とは死んでもならないけどな。
私の小説にしては長い感じですよね。
本当はもっと長くなる予定だったんですが。 収集つかなくなりそうなので止めました。 電車での掛け合いが翼さんらしくないのは、 始め水野将だったのをなおしたからなんです。 ああ失敗・・・ 最後まで読んでくださって有り難う御座いました。 雛谷。 |