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ゆっくりと膝に掛かる圧力。それがなくなると同時に重い音をたてて目の前が開ける。すぐさまエスカレーターを降りて、マンションの最奥に位置する恋人の部屋へと急いだ。 軽い門を開け、一瞬止まってからインターホンを押す。軽快なお決まりの音が響いた後、スピーカーから将の声。 『はい。』 「3秒で開けなかったら、どーなるか分かるよな。いーち。」 『・・・なっ、そんなのズルイですよ、翼さん!』 一瞬間を置いから慌てた声で抗議。でも、そんなものはお構いなしにカウントダウンは続く。 「にーい。」 『ちょ・・・っ』 ガシャ、と言う音に続いて、ばたばたと廊下を駆ける足音。そして鍵の開く音がして勢い良く扉が開いた。 「さん。」 カウントが終わると同時に、将を見たまま翼の動きが止まる。正確には、将の抱えていた猫を見たまま。 「・・・翼さん?」 「っくしゅん!」 右手にはコーヒーとお菓子をのせたお盆、もう片方の手には薬箱を持って自分の部屋へ急ぐ。控えめにドアを開くと、翼が不機嫌な顔をしているのが目に入った。 「まだ、つらいですか?」 躊躇いつつもゆっくりと部屋に入って声を掛ける。 「お前の家はいつから猫なんか飼ってたわけ?」 翼から返ってきたのは、少し鼻に掛かったような声。今までの付き合いから、将には翼の機嫌が酷く悪いことが伺える。 将は思わず身を固くした。 「ええと・・・飼ってる、わけじゃないんですけど・・・」 「じゃあ、なんで猫がいるんだよ?」 翼が、フイと猫のいる部屋の方を睨んだ。 事の始まりは、2日前に遡る。 ピンポーン… いつもなら寝ているような時間、功の夕食の準備をしていたときに突然インターホンが鳴り響く。将が急いで応対に向かおうとすると、それを制して功が代わりに玄関へと向かった。 話し声から察するに、どうやら訪ねてきたのは隣人らしい。それに安心すると、将は中断していた夕食の準備を再開させた。 しばらくすると「お願いします」とゆう隣人の声が聞こえてドアの閉まる音がする。 ニャァー… 功が廊下を歩く音がしたかと思うと、耳元で居る筈のない鳴き声がして。思わず勢い良く振り返る。 「・・・どうしたの、それ・・・?」 将の真後ろに立っていた功が抱えていたのは、2匹の猫。 「かんた、と、テト、だそうだ。」 一匹ずつ前に出しながら名前を呼ぶ。茶色い方が『かんた』で、灰色のシマがある方が『テト』。それは良く分かった。だけど、どうして功が猫を抱えているのかという肝心な事がまだ解らない。将が質問を口にする前に先回りして答えを口にした。 「お隣さんが明日から旅行に行くんだってさ。で、猫を預かってくれないかって。」 そう言って、2匹の猫を手渡された。 「ふーん・・・。」 言いにくそうにする将から説明を受けた後、コーヒーで不必要に大きい薬を流し込みながら将の方に視線を向けると、将は居心地悪そうに俯いていた。翼は将に気付かれないように笑って、静かにコーヒーカップを置く。 「将。」 「は」 返事をしようと顔を上げると、それを遮って自分の唇に翼のそれが当たる。 「なっ、何するんですか?!」 「何ってキスだよ。」 「そんなの解りますっ。そうじゃなくてっ!」 将が顔を真っ赤にして後ずさりをする。今更キスくらいで恥ずかしがる将に、内心感心しながらも将の後を追う。 「さっき3秒で開けなかっただろ?」 「ちゃんと3秒で開けましたよ?!」 「駄目。3秒未満ってのは3秒はカウントされないんだよ。」 「未満なんて言ってなかったじゃないですか!」 更に後ずさりをしようとする将の首に手を回して逃げられない様にすると、頬に軽くキスをする。次は瞼に。額に。耳に。 「未満とは言ってないけど、以内とも言ってないだろ?」 「・・・そんなの、反則です・・・。」 抵抗しなくなった将に満足そうに笑い掛けて、今度はさっきよりも少し長く、もう一度唇にキスをする。 (やっぱり、勝てない・・・・) 真っ白になる頭で目を瞑りながらそんな事を考えていると、どうした訳かしばらく経っても何も起こらない。 恐る恐る目を開けると、翼が一点を凝視したまま固まっていて。本日二度目のその光景に、将も翼の見ている方向を振り返る。案の定、扉の隙間から茶色い毛並みが覗いていて。 「・・・っくしゅん!」 翼が将に何かをしようとすると尽く猫に邪魔され、その日以降、翼の猫嫌いに拍車が掛かったのは言うまでもない。 |
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この物語を、二宮瑠詩さまへ捧げます。あんな企画に参加して頂いて、本当に有り難う御座いました。散々な文章なのですが、心だけはこもっておりますので・・・ |