その日、椎名翼は不機嫌だった。どのくらい不機嫌かと言えば念願の恋人にすらその不機嫌を隠さないほど不機嫌だった。
まあ、不機嫌の原因がその恋人にあるのだから、不機嫌を隠すも何もないのだけど。






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「・・・。」

「・・・。」

真っ青になっている将の前で、ただ黙々とバリューセットを口に運ぶ。誰から見ても翼が不機嫌なのは明確で。

「・・・あの。」

「何。」

重々しく流れる沈黙に耐えかねた将が口を開くと、翼は棘のある声でそれを遮るように抑揚を付けずに返事を返す。

「・・・何でも・・・ナイ、です。」

その口調にびくりと肩を震わせた将は、口を何回か動かすが結局何も言えずに引き下がった。
こんな状況が、店に入った瞬間からずっと続いている。






事の起こりは、今から遡ること30分ほど前になる。

「よぉ。」

飛葉中の校門の前で翼を待っていた将は、突然後ろからかけられた声に驚いて振り向いた。

「・・・黒川くん。」

「翼なら今来るぜ。」

「有り難う。」

素直にお礼を言うと、黒川が黙って将の顔を見つめる。自分が何か変なことを言ったのだろうかと少し不安に思うと、それが顔に出てしまったのか黒川が急に弁解をした。

「翼が誕生日に上機嫌だったのは初めてだったんだよな。」

それで不思議に思っていたんだけど、と続けようとするが、将の顔が強張ったのを見て止める。

「どうした?」

「・・・誕生日って・・・誰の?」

将が恐る恐る返してきた言葉に、その場の空気が凍り付く。

「・・・翼、の。」

「・・・29日じゃ、なくて・・・?」

柾輝は何かを言おうと口を開くが、結局何も言えずに口を閉じる。これ以上追求することの方が怖い。

「・・・。」

「・・・。」

二人の間にどうしようもない沈黙が流れた。横を通り抜けて行く人達に冷たい目線を向けられたが、はっきり言ってそんなことを気にしている余裕はどこにもない。翼を良く知る人間にとっては死活問題だ。

「将ー!」

その翼の呼びかけと同時に二人の顔から一気に血の気が引いていく。

「・・・頑張れよ。」

「・・・有り難う。」

先程とは違った複雑な心境で柾輝に礼を言った。






あの後ありのままを翼に謝罪をして、現在に至る。
自業自得とは言えども、この沈黙は流石に辛い。これなら怒り任せに怒鳴りつけられる方がまだマシだ。

「・・・翼さん」

さっきから、何度も言っている謝罪の言葉を言おうとしたとき、それを遮って翼が口を開いた。

「だいたいにおいて普通、仮にも恋人の誕生日を勘違いするか?」

もっとも過ぎて言い返す言葉もない。後悔の為に俯いていたから、翼が口元だけで笑ったのを見逃していた。

「早く勘違いするならともかく、10日も遅く覚えてるなんて問題外だよな。」

「・・・はい。」

「本当に悪かったと思ってる?」

「・・・はい。」

「本当に申し訳ないと思う?」

「・・・はい。」

「じゃあぼくの言うこと、なんでも聞いてくれる?」

「・・・はい。・・・って、ええ?!」

将は頷いてしまってから時間差で勢い良く疑問符を投げつけた。顔を上げた瞬間、意地悪く笑っている翼と目があって。思わずテーブルに肘を付いた。

(やられた・・・。)

「当たり前だよな。じゃあ、将。」

強気の笑顔を崩さないまま、長椅子に座っている翼が少し横に移動する。そして、自分の隣を指で差した。座れと言っているらしい。
頷いてしまった以上、断る訳にもいかなくてのろのろと将は席を移動した。

「もうちょっと向こう。」

将の座った位置を見て翼がもっと自分とは離れた方向に座るように指定する。それに素直に従うと、一気に長椅子の壁に面した所まで移動した。

「まあ、その辺かな。」

そう言うと、目の前にいた翼の顔が突然視界から消えた。変わりに太股の辺りに重みを感じる。一瞬、何が起きたのか理解できなくて、将の膝の上に投げ出された翼の顔をまじまじと見つめ返してしまった。
これは、膝枕と言うのではなかっただろうか。

「つっ、翼さん?!」

「何?」

「何してるんですか?!」

「膝枕。」

当然の事のように言い返されると、まるでこっちが間違っているような気分になる。

「そうじゃなくてっ」

「だって言うこと聞いてくれるんだろ?」

翼が遮って告げた言葉でそれ以上は何も言えなくなってしまった。だけどこの状況は恥ずかしすぎる。ただでさえ顔見知りが来ることの多い店なのだ。
人が来ないことを祈りつつ回りを見渡すと、急に首を引っ張られる。なんの準備もしていなかった将は、引っ張られるままに上体を折り曲げた将の唇に暖かいものが触れる。
直後、将の顔が紅く染まった。

「・・・!」

言い返そうと将が口を開くより早く翼が言葉を紡いだ。

「まだ、足りないよ?」






その後、将がどんな目にあったかは、ご想像にお任せするとゆうことで。

何とも言い難い小説ですね。書く度に文章力が消えていくのは勘弁して欲しい。。もう、本当にこんな小説ばっかりで御免なさい。。
最後まで読んでくださって有り難う御座いました。

雛谷。