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「…ったく、あの馬鹿…。」 眉間に軽くシワを寄せながら、溜息と共に受話器を戻した。 「え、おいっ、風祭っ?!」 「ポチっ!」 ボールを受け取ろうと走り出した瞬間、ふと、目の前が真っ白になる。耳の端の方で、茂樹と竜也の声を聞いたような気がした。背中を誰か腕に支えられながら、平衡感覚を失った体で立ち上がろうとする。その行動は、力の入らない足と抑え付けてきた腕に遮られてしまったけれど。将は、倒れている訳にはいかない、と必死に意識を留めようとする。 だって、翼さんとの約束があるのに。 「え?」 『…人の話、聞く気あんの?』 受話器の向こう側からわざとらしい溜息と共に、ウンザリしたような声が聞こえてくる。 「あ、ありますよっ。ちょっと聞き逃しただけ」 『へえ、ちょっと? 何十回言い直したと思ってんの、このぼくが。』 焦って口にした言い訳を遮って、怒りは感じられないが少し強う口調で返してくる。それはもっともすぎる言葉で、言い返す言葉もなく。すみません、と軽く謝罪した。 久しぶりの電話で、嬉しくないはずがないのに。頭の奥がぼうっとしていてどうにも電話に集中できない。今日は部活も選抜の練習もなかったから、疲れて眠いなんて事はありえないし。 『…将。将!』 「あ、ハイっ。」 『ハイ、じゃないだろ。何があったのさ?』 真面目な声でそう問われて、理由もなく言葉に詰まってしまった。この恋人は、自分よりも自分のことを良く分かってしまう人だから。何かあるのかな、と思わず考えてしまったのだけど。 やっぱり何もなくて。 「…何も…ないんです、けど。」 『けど?』 「さっきから頭がぼうっとして…。」 力無くそう言うと、受話器の向こうから帰ってきたのは何故か溜息で。何かおかしな事を言っただろうかと首を傾げる。 『…明日の約束、延期な。』 「え、な、なんでですか?!」 今日は五月九日。明日は翼と会ってから初めて迎える誕生日なわけで、将としてはやはり好きな人と一緒にいたかった。この電話はその事を翼から誘ってきてくれたものの延長だし、そんな急に外せない用事が出来たなんて事は考えられない。 そうすると思い当たるのはさっきの翼の溜息。やはり何かマズイ事を言ったのだろうかと受話器を持つ手に力を込める。 『なんでって…体、具合良くないんだろ?』 「そんなことありません!」 本来ならば翼の気遣いを喜ぶべきなのだろうけど、本人には自覚がないのだから喜べと言う方が無理だろう。いつもとは違う、強い口調で否定をした将は、翼が次の言葉を切り出す前にもう一度口を開いた。 「…せっかく、久しぶりに会えるのに…。」 『………………。』 普段は恥ずかしがって絶対に言わない言葉がサラリと出てくる辺り、本人に自覚はないながらも結構な熱はあるようだ。 「…つ、翼さん?」 『分かった。』 「え…。」 たっぷりと開いた間がなんだっかのかは、この際置いておくとして。溜息と共に受話器から聞こえてきた言葉はプラス意味が込められていて、聞き返す将の声に喜びが混ざる。 『その代わり、今日は早く寝なよ?』 「はいっ!」 少し誤魔化すような翼の言葉に頷くと、約束を確認してから電話を切った。時計を見上げて、早く寝なければ、と焦ったように部屋へ向かう。 目を開けると、視界に入ったのは見慣れない天井で。 (…あれ…?) 寝起きと熱でぼやけた頭を働かせて、ここがどこなのか思い出そうとする。ぐるりと目だけを動かして部屋中を見回すと、いきなり体を起こした。 (約束っ!) 確か部活中に倒れて、保健室に担ぎ込まれたのだ。焦って時計を見ると、約束の時間までもう十分を切っている。幸い、待ち合わせ場所は将が住んでいるところの駅だから走ればまだ間に合う。 (早く行かなきゃ!) 眩暈のする頭を無視してベットから飛び降り、茂樹や竜也を避けるために校庭とは反対側の窓を開け放った。保健室は一階に位置するので、そこから外に飛び出る。 はず、だったのだけど。 「何、やってんだよ病人。」 窓の外にいたのは、これから駅へ迎えに行くはずだった人物、椎名翼その人だった。 人の顔を見つめながら、鼻先で固まっている将を窓の中に押し込んで、自分も靴を脱ぐと窓から中に入り込む。そして、半ば無理矢理将をベットに寝かしつけた。 「え、あの何で…」 「だから昨日言っただろ。会ったって体壊してたら意味ない…」 そこで、ピタと言うのをやめる。 「…何がおかしいわけ?」 せっかく自分が考えてきた将に極力体力を使わせないようにとゆう計画も無駄になってしまったし、将が倒れたことを知らせる電話では竜也と茂樹に散っ々嫌味を言われた上に、将が目を覚ましたら絶対に自分を迎えに来てしまうだろうから、と駅から全力疾走してこなければならなかった翼としては、言いたい文句は体の中に渦巻いているのだ。 …それなのに。 「あ、ごめんなさい。…翼さん久しぶりに見たから、嬉しくて。」 そんな顔をしてそんな台詞を吐かれたら、怒鳴るものも怒鳴れなくなってしまうではないか。 「ホントにごめんなさい、ぼくが無理言ったから…翼さんの言う通り、日にちずらせば良か、わっ!」 はあ、と思わず漏らした溜息をどうとったのか、辛そうに眉を寄せて謝罪を述べる将の顔に包装された包みを押し付ける。 「プレゼント。」 「…え、と。」 押し付けられた包みと自分の顔を交互に見比べている将の姿が、あまりにも今の将の心境を表しているようで、思わず口元に笑みが浮かぶ。 「何? いらないわけ? 人がせっかく買ってきたって言うのに?」 「ええ? ってあああそんなことないですいりますいります!」 好きな人ほどいじめたくなるとゆう心理なのか、受け取ったきり何も言わない将から押し付けた包みを取り返す振りをする。途端に慌てて起き上がろうとした将にまた包みを押し付け、冗談だよと付け足した。 「ありがとうございます!」 「どういたしまして。」 「…でも、今日は誘って貰ったのにすみませんでした。」 満面の笑顔でお礼を言ったあと、またもや顔を曇らせて謝る将に気付かれないように苦笑する。そんな顔をされたら、家に送ってハイサヨウナラなんて出来なくなってしまうと言うのに。 「将、今日は家に誰かいるの?」 「あ、いえ、功兄は仕事ですから。」 「へえ…。」 まだプレゼントを抱えたままの将と目を合わせて、に、と口の端を持ち上げる。 「じゃあ、将の具合が良くなるまで面倒見てあげるよ。」 「そんな、悪い」 「ついでに将の誕生日も祝えるしね。」 熱のある頭では展開についていけないらしく、少しの間の後、プレゼントを抱えたままの将が翼の顔を見上げた。 「翼さん。」 「何?」 「ぼく、急に熱が上がってきたみたいです。」 そう言って嬉しそうに笑いながらプレゼントを抱え直す。 「…はいはい。」 力無く返事を返すと、惚れた弱みを実感した翼は、甘くなったなと呟きながら明後日の方向を向いて溜息を吐いた。 本人以外に言わせれば、翼の将に対する甘さはもうずっと前からだったりもするのだが。ドアの外では、一部始終を聞いていた竜也と茂樹が、翼とはまったく違う意味の溜息を吐いていたりする。 |
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久しぶりだわ翼将…!久しぶり過ぎて忘れてました(笑)。ヤハリ自分は翼将本命なのだなあと実感しました(そして内容には触れずに終わる)(極寒)。 最後まで読んでくださって有り難う御座いました。 雛谷。 |