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君に会いに行こう ―――今夜は星のよく見える夜になるでしょう……… つけたままにしていたテレビから、そんな言葉が流れてくる。将は洗い物をしていた手を止めて視線をあげた。 そう言えば今日は七月七日―――七夕だったと思い出す。 リビングを挟んだ向こう側にあるガラス戸を見ると、赤く染まった空は確かに晴れ渡っていた。まさに五月晴れと形容するに相応しい天候で、このまま夜になれば、久しぶりに彦星と織り姫は再会できるだろう。 将の覚えている限りでは、七夕の夜が晴れているなんて初めてのことだった。七夕といえば、雨とは行かないまでも、この時期独特の暗い雲が空を覆っていて、月さえ見えないような天気ばかりだったのを覚えている。 手に付いた泡を洗い流すと、手を拭きながらキッチンを出る。電気不足が騒がれていることだし、見てもいないテレビをつけておくのは無駄だと思ったからだ。テレビに向かう途中、天気予報らしきものが終わって、人混みにいるような騒音が流れ始めた。街頭のインタビューかな、と将はぼんやりと思う。 ―――今夜は誰と過ごしますか? 将の予想通り、聞こえてきたのは女性アナウンサーのそんな声だった。テレビの前にあるテーブルから、テレビのリモコンを手に取る。幸せそうな女の議との顔が画面に映った。 ―――もちろん恋人とです……… ぱちん、とテレビの電源を落とした。 再びキッチンへ戻ってきた将は、スポンジを手にとって洗い物を再開する。食器にスポンジを滑らせながら、頭に浮かぶのは先ほどのインタビューの答えだけだった。 (………恋人と、…。) そう呼べる相手が、将にはいる。 ひとつ年上で、気が強くて、頭が良くて、本人には言ったことがないが、とても整った顔立ちをしていて―――どうして自分なんかを選んでくれたのか、分からないくらいに格好良い人だと将は思っていた。 ………ここに翼がいたら、自覚がないにもほどがある、とため息をついたに違いないが。 (翼さんは、どうするんだろう………?) スポンジの泡を洗い流すと、洗剤やらが置いてある網棚へ置いた。洗い終わった食器を持ち上げて、流したままにした水で濁った色の泡を流していく。 誰か、別の人と過ごすのかもしれない。自分を好きだと言ってくれている翼を疑うわけではなくて、人を惹きつける人だから。付き合い始めるようになって知ったことだけれど、翼は驚くほど顔が広いのだ。 つまりそれだけ親しい友達も多いということで。 (一人、なんてことは………ないんだろうな…。) 泡を落とした食器を自動乾燥機の中に入れていく。残っているのは、マグカップがひとつ。二ヶ月前の誕生日に、翼がプレゼントとしてくれたものだ。 両手で持ち上げて水を流すと、乾燥機の中に入れる。 最近会っていないなんてことはない。一昨日に会ったばかりだし、昨日も電話をした。 でも。 「会いたい、な………。」 口に出した途端、自分でも思ってもいなかったほどに強くそう感じた。舌先がジンとしびれて、体の内側があつくなる。ゆっくりとそれは指先まで広がった。 会いたい。 目眩がするように甘い感覚。いつの間にか閉じていた目蓋を開けて、深く息をはき出す。 壁に掛けられた時計を見上げると、短針は七時を越そうとしているところだった。 キッチンを後にして、自分の部屋へ向かう。上に一枚シャツを羽織って、あとは財布だけを持って家を出た。 早く会いたい。 焦る手で扉の鍵を閉めて、階段に向かう。エレベーターを待つ時間すらもどかしかった。 駅の階段を上がってから一息つく。急く心が足を速めさせたせいで、少し息が上がっていた。 切符を買う前に公衆電話へ向かった。ここまで来てしまったけれど、誰かと一緒にいるのなら邪魔をしたくなかった。 翼の携帯の番号はいつも財布の中にいれてある。四つに折り畳まれた紙を丁寧に広げると、受話器を持ち上げてテレホンカードを差し入れた。番号を目で追いながらダイアルを押す。 (ぜろ、きゅう、ぜろ…) 10桁まで押して、一度深呼吸をする。呼吸を整えるためであったけれど、祈りの気持ちもあった。できれば、一人でいて欲しい。 カチ、と最後の一桁を押す。受話器を耳に付けると、ぷつり、という音の後に呼び出し音が続いた。 1回、2回、3回……… (…でない、かな?) 8回目のコールを数えて、そう思う。公衆電話だから、電話に気付いても出ないのかもしれない。諦めて受話器を耳から離そうとしたとき。 『…はい。』 相手が分からないためか、少し堅い翼の声が受話器の向こうから響く。自分からかけたくせに驚いて、とっさに声が出なかった。不自然な沈黙が流れる。 『………もしもし?』 不審に思っているような、明らかに機嫌が急降下しただろう翼の声を聞いて、やっと我に返る。 「…あっ、ごめんなさい、風祭です!」 焦った声でそう返した。意味もなく受話器の前で姿勢を正しながら、受話器を握り直す。 『…将?』 驚きを含んだ柔らかい声で呼ばれる。その声色に安心した将は、少し緊張を解いて、はい、と返事をした。 『どうしたの?』 当たり前のことなのだけれど、いきなり本題を聞かれて、せったく説けた緊張がまた張りつめる。 「…あ、あの…、」 受話器を少し耳から遠ざけて、大きく深呼吸。息を詰めて決心を固めた。 「翼さん。」 『ん?』 「今から会えませんか?」 断られるにしろ何にしろ、返答はすぐに帰ってくるだろうと思っていたのに、受話器の向こうから届いたのは沈黙で。 (………あれ?) 予想外の展開に、将は受話器を握りしめたまま戸惑う。 こちらから問いかけた以上、向こうが答えを返してくれるのを待つしかない。向こう側を流れる騒音を聞きながら、将は翼の言葉を待った。 『―――…すごい、偶然………、』 長い沈黙の後、翼が発したのはそんな言葉だった。意味が上手く掴めず、将は更にとまどいを深くする。 「………どういう…、」 ことですか、と聞き返そうとしたとき、翼の後ろの騒音が大きくなる。ブレーキの音、なにかが開く音、人のざわめき。 (………駅…、―――!) 騒音に混ざって聞こえたアナウンスに、将は目を見開いた。 告げられたのは、まさに将がいるこの駅の名前で。 「………翼さん…!」 将の声から、先ほどの翼の台詞を理解したことが分かったのだろう。帰ってきた翼の声は笑いを含むモノだった。 『言っただろ? …すごい偶然だって。』 受話器を叩き付けるように戻して、ボックスを飛び出る。暗くなった空では星が見え始めていた。
END...
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………ありがちな…。 将が翼のことを考えているあたりがとても苦しくて笑えます(痛)。え、夢見過ぎですか(笑)。ボキャブラリーが貧困だなあと痛感しました…。 最後まで読んでくださってありがとうございました! 管理人、雛谷色葉(20030718) わかりにくいので解説(しなきゃいけないなんて痛すぎる…) 将が電話をかけたとき、翼さんはちょうど将の家のある駅に着いたところだったのです。以心伝心だなんてラブラブだネ!とゆうお話なのでした。 雛谷(20030928、移動) |