†初雪予報。




さっきから何となくそわそわして勉強が手につかない。
原因はわかっている。
朝見た天気予報。
どうやら今夜から雪になるらしい。

この冬初めての雪の予報。
受験まで一ヶ月を切った時期。
一応「受験だから」と、電話もデートも控え目にして早や一ヶ月。
声を聴いたのは3日前。顔を見たのはすでに7日も前のこと。
「初雪予報」が翼に投げかけた波紋は消えるどころか
大きくなるには充分な状況。

コロン、と手にしたシャーペンを机の上に放り出すと、
さっさと外出の準備を始める。
おそらくコイビトも、冬休みの宿題に精を出しているだろうから、と。
一応勉強道具もバッグには詰め込んで。
コートを羽織ってマフラーを首に巻いて。

「出かけるの?」
「うん」
「また、泊まってくるの?」
「いいじゃん。冬休み最後なんだからさ」
「今日は誰の所?」
「将のトコ」

それだけ言うと、さっさと家を後にする。
どんよりとした空。時折吹きつける冷たい風。
確かに雪が降りそうな予感。

──電話をしようか。
一瞬そう考えてみてすぐに否定する。

突然目の前に現れて、驚かせてやりたい。

──この僕が、わざわざ会いに行ってやるんだから。
無駄足になるはずなんてない、なんて。
根拠のない自信。
いなかったらいやだという、かすかな不安を隠しつつ。


駅に向かう途中、母親が買ってきておいしかったケーキ屋に寄って。
今日の午後のおやつと、夜のデザートの計4つ。
それから、その店特製のアールグレイを試しに買ってみて。

こんなに寒くて、こんなに天気が悪いのに、
翼はすこぶる上機嫌。

電車を待つ時間すら気にならない。
すでに見慣れた風景もどことなく新鮮。




電車を降りて、階段を上がって。
改札口の向こうに、なぜかコイビトが笑顔でお出迎え。
予想外のデキゴト。

「何、してんの?」
さすがの翼も驚いて問う。
「何となく、翼さんが来るんじゃないかって…」
笑顔で返される根拠のない予想。

「どれくらい待ってた?」
「さあ?……お昼のニュースを見てからだから、1時間くらいですか?」
1時間前。翼がまだ机に向かってとりあえず勉強していた時間。
「どれくらい待つつもりだった?」
「さあ…?翼さんは来ないんだって納得するまで」
口にされた漠然とした時間は、恐らく将のコト。
翼が確実に来れなくなる時間まで待ちつづけたのではないだろうか。

翼は呆れた顔で笑顔のコイビトを見つめる。
ふと。ココロにかげる一つの思考。
ハッとして、問う。
「ひょっとして、毎日こうしてたとか言わないよね?」
それならそれで嬉しいのだが、かなり良心が痛むというもの。
「いいえ……。だって翼さん受験勉強してるって分かってましたから」
──来ないってコト、わかってましたから。
「じゃあ、今日は何で?」
ホッとしつつも、それならそれで不思議というもの。
「笑いませんか?」
「まあ、保証は出来ないけど」
確認するような将の言葉に、出来得る限りの誠意で答えて。
「あの……」


コイビトの口から流れ出す言葉は、翼を更に驚かせるもの。

「天気予報で、今日雪が降るって言ってたから。
…来てくれるんじゃないかな、って何となく思って」

──本当は、僕が翼さんと一緒に雪が見たかっただけなんですけど。

はにかむような笑みを浮かべるコイビトに、
翼は小さくため息を一つ。
「翼さん?」
翼のニブいコイビトは、ため息にばかり気をとられ、
わずかに朱色に変化した翼の頬には気がつかない。

「全く…来てよかったよ今日。じゃなかったら将は新学期そうそう
風邪で学校休むことになってたかもね」
「……すいません」
自分がココに居るワケを、翼はまんまとはぐらかす。
「ま、冬休みだし、このところずっと会ってなかったし、
雪はいつ降るかわかんないし。今日は泊まってくからね」
「……はい!」
満面の笑みで返事をされて、翼もつられて笑みを浮かべる。



天気予報を見てて良かった。
電話なんてかけなくて良かった。


そして。
コイビトが自分を好きでいてよかった。
会いたがってくれててよかった。
会いに来てよかった。
すれ違いにならなくてよかった。




恋のカミサマが、
二人に微笑んでくれてよかった。


そう思わずにいられない、冬の午後。



      end.




比嘉かづきさまより頂きました。

恋の神さまナイスですね!
キリ番取って良かった・・・
比嘉さまの書かれる小説は本当に好きなので、
キリ番取った瞬間に嬉しさのあまり
ふすまに穴開けました(怒られた)
比嘉さま、本当に有り難う御座いました!

雛谷。